最終的なゴールはどこなのか?

変革とは、組織が生き延びるために変わることを指します。つまり、「変わる」ことは手段でしかありません。また、目的が明確にならなければ、手段を選ぶことができません。つまり、何を目指して変化していくのか、変化する先のゴールが明確にならなければ、どう変化するのかがはっきりしません。そんな状態では、大きな変化は期待できません。「変革の目的を明確にする」とはどういうことか、伊賀市の事例と、経済省のDX定義の解説を例に説明します。

三重県伊賀市の事例

Bethが支援する三重県伊賀市では「選ばれる伊賀市」を変革の目的の1つとしています。選ぶのは人です。つまり、この目的をより明確にするためには、「選ぶ人」を明確にする必要があります。もっとはっきり言えば、誰に選ばれたいのかと、逆に誰に選ばれなくて良いのかを決めます。こうして選んで欲しい人が明確に異なれば、呼び込むための手段を選ぶことができるようになります。また、手段を検討する際に、選ばれなくてもいい人を考慮する必要がなくなります。

目的が明確にならないと手段を選べません。「選ばれる」という前向きな言葉をさらに具体化することで「目的」を明確にでき、適切な手段を具体的なTODOレベルまで落とし込むことができます。

経産省のDX定義の解説

まず、変革のための経済産業省のDX定義から確認してみましょう。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、
データとデジタル技術を活用して、

顧客や社会のニーズを基に、

製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、

業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、

競争上の優位性を確立すること

このままだと少し分かりにくい。
だから、「目的」「手段」「やるべきこと」の順番に並び替えて
分かりやすい文章に書き換えてみましょう

  • 【目的】

    企業がビジネス環境の厳しい変化に対応しつつ、
    競争上の優位性を確立するため、

  • 【手段】

    顧客や社会のニーズを基に、
    製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、

  • 【やるべきこと】

    データとデジタル技術を活用して、
    業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革すること。

整理することで、スッキリしました。

「変革の目的」を知るための
2つのポイント

1:貴社にとっての「環境の変化」とは
具体的に何か?

経済産業省の定義に従えば、DXの目的は「環境の変化に対応しつつ、競争上の優位性を確立する」ことです。企業や行政ごとに、周囲の環境は異なります。それは、変化の度合いや速度がそれぞれ違うということを意味します。この変化をまずはっきりと理解することが重要です。

2:自社にとっての「競争相手」は、
具体的にはどこか?

次に、誰と競争するのか、はっきりと定義することが重要です。コーヒーショップのスターバックスが直接競争する相手は、ドトールや街の喫茶店などの他のコーヒーショップです。一方で、スターバックスの顧客には、勉強のための場所代としてコーヒー代を支払う人もたくさんいます。勉強目的の人にとっては、図書館も選択肢に入るはずです。つまりスターバックスの間接的な競争相手には、図書館が入るわけです。

最近図書館の経営で大成功しているのは、蔦屋を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社。
つまり蔦屋:CCCが、コーヒーショップのスターバックスの間接的な競合となる可能性があるのです。
提供する商品が似ているだけではなく顧客が買ってくれる理由でも競争相手を探すことで、越境して参入する企業・組織を見定めて、それらに対しても優位性を確保することが大切です。

自社にとっての環境変化とは何か?自社にとっての競争相手とは、誰か?このようなことを議論することで、デジタルトランスフォーメーションを行う「目的」を明確にできます。

三重県伊賀市の「選ばれる伊賀市」や、経産省のDXの定義を題材にしながら、
目的を明確にするとはどういうことなのかを体験していただきました。

日本人は、昔から目的を明確にすることが苦手です。

そのため、目的がはっきりしないままに、分かりやすい手段を先に選びがちになります。

目的がない状態で先に手段を選んでしまうと、「手段の目的化」の罠にはまります。

我が社がDXするのはなぜなのか?誰と競争し、どのくらい勝つのかを考えることで、
目的を明確にできて、取るべき手段が明確になります。

目的が明確になると、例えば電子印鑑の導入は自社にとってDXに役立つのかどうか、
その優先度はどの程度なのかを、判断できるようになります。

目的を明確にして、必要な手段だけを選ぶ。
これが最短で変革するための必須条件です。

検討手段を使いこなす

新規事業の検討では、「お客様の目線で事業を作る」「共感が大切」とよく聞きますが、では、「共感する」とは具体的にはどういう意味なのでしょうか?どんな行動をしてどんな状態になれば、共感できた、と言えるのでしょうか?

このように検討手段は、具体的な行動が実はよくわからない、というものがたくさんあります。
手法を通じて何をするべきなのか目的がはっきりしないからこそ、手段としての具体的な行動がわからないのです。
これらの検討手段も、目的を明確にすると適切な手段(行動)がはっきりします。

ここでは新規事業の検討で最も重要な「共感する」を例に、手法の目的を明確にして、とるべき行動がわかるというのはどういうことか、説明します。
では、まず下の図を見てください。

楽しそうな家族がいます。
お母さん、お父さんは、赤ちゃんのためにおもちゃを買ってきて、かわいいと喜んでいます。
両親は直接おもちゃで遊ぶわけではないので、ここではサービス提供者としましょう。

では、実際におもちゃを使う赤ちゃんからはどう見えているのでしょうか?

これが、赤ちゃんに見える光景です。お尻がくるくる回っています。衝撃的ですよね笑。
このように、実際に使う人が目にする光景を「お客様の目線」といいます。

お尻が回る光景は、事実です。事実は1つなので、誰が見ても同じ光景に見えます。
しかし、解釈は人によって異なります。
お尻が回る光景は、お金を払うほど価値があるのか、激怒することなのか、それとも興味がないのか。
事実は1つでも、人それぞれの価値観によって判断が分かれます。

この「価値観を知る」ということが、共感することの目的です。
顧客の価値観を知らないままに多額の予算を使いサービスや製品を市場投入しても、顧客がお金を払ってくれるほどに価値を感じてもらえるかは、博打となります。事業検討を博打にしないためには、検討の初期段階で顧客の価値観を把握することが大切です。

ここでの説明の目的は、共感することの目的を明確にして、行動まで落とし込むことでした。
共感することの目的は、価値観を知ることだということまではっきりしました。
次の疑問は、「じゃぁどうやって価値観を知るのか?」です。

顧客の価値観を知るためにすべき具体的な行動は、例えばお尻が回るこの絵を見せて、価値があるかどうかを直接質問するだけです。
つまり顧客にアイディアを見せたり説明したりして、生の反応を取りにいくのです。
このように具体的なアイディアを見せて、感触を聞く。
これを繰り返すことで、顧客の価値観、何が好きで、何が嫌いなのかを把握できます。

見せるアイディアは、ほんの一言だけでも、また絵にするなら手書きで十分です。初期段階は綺麗に色付けをする必要もありません。
例えば、家族や友人、同僚を食事に誘うときに「パスタ食べに行かない?」と聞くようなモノです。
このようにたった一言でも、行く・行かない、好き・嫌いと、その理由を答えられるのが人間の素晴らしいところです。
このように簡単にアイディアを作り顧客に投げかけてみて反応を引き出すことを、「早く、たくさん失敗する」と表現することもあります。

ここでは、「共感する」を題材にして、「目的を明確にしてとるべき具体的な行動を
はっきりさせる」ことを説明してきました。
単純に「共感してください!」と指示されるのと、「顧客の価値観を知るために、
アイディアを見せて好き嫌いの判断と、その理由を聞いてください」と指示されるのでは、
後者の方が検討を進めやすいはずです。

巷にあるあらゆる手法を使いこなすためには、目的と、その目的を達成するための具体的な
行動をはっきりさせることが大切です。
Bethでは、新規事業やDXに必要な手法の目的と具体的な行動を整理した
手法マップをもとに、最短距離を走るための支援をします。

一緒に最短距離を探す

組織変革、新規事業、DX。これらを実現するための最短距離を一緒に探すこともあります。変革の目的をはっきりさせ、必要な手法も手に入れると、ようやく出発できます。実際の旅路はここからスタートです。

例えば、新規事業。対象とする顧客は絞り込んだ。顧客の価値観を知るために、複数のアイディアを投げかけてみてインタビューもした。では、とってきた情報をどう分析していけばいいのか。Bethでは、過去に行ってきた数百案件での実戦経験をもとにインタビュー結果の分析も1時間の議論の中で支援します。これは特別なことではなく、練習次第で誰にでもできることです。

ここでは、新規事業で求められるインサイト分析に実例を紹介し、Bethが一緒に最短距離を探すことを体験いただきます。

新規事業でほぼ全員が感じる悩み

インタビューをしたけれど、どれがインサイトなのかよくわからない・・・。この悩みは、デザイン思考やリーンスタートアップの中級者にはよくあります。ここでは、「インサイト」そのものと、インサイトを探すための道具であるインサイトサークルを紹介し、具体的な事例を通じてインサイトを探します。

Bethでは、インタビュー結果からインサイトを抽出する部分だけでも、ご相談を受けています。

●「インサイト」とは?

新サービスや製品開発でのインサイトは「その人を突き動かす本音や、実現したいす。
インサイトの深さにより表現が変わります。

インサイトには本来深さがあり、状況に応じて取得する深さが変わります。
Web記事を書く場合や、広告を検討する際のインサイトは浅い場合が多く、ペルソナのキャラクター(どんな人で、何に悩んでいる人なのか)と同義のように扱われることがあります。

一方で製品やサービスを開発する場合は、より深い部分を見に行く必要があり、一番深い場合を「その人を突き動かす本音や、実現したいこと」と表現します。

Beth 開発インサイトサークルとは

普段から自分自身のインサイトを意識しながら生きている人は、ほとんどいません。一方で、ヒトはインサイト、つまり「その人を突き動かす本音や、実現したいこと」にそって発言や行動をしています。この本人も自覚していないような頭の中は覗き見ができないので、見聞きできる発言と、行動からインサイトを逆算することになります。

この時に使える道具、考え方が、Bethの開発したインサイトサークルです。

インサイトサークルでは、先ほど書いた「ヒトはインサイト、つまりその人を突き動かす本音や実現したいことにそって発言や行動をしている」ということを前提に作られています。そのため、インサイトを分析する際にまず着目するポイントは、見聞きしてわかること、です。

発言や行動もそうですし、対象者の仕事や学歴なども分析するための大切な情報です。これら、観測できる情報を並べた時に、矛盾することが目につくことがあるはずです。ある時の発言と、別の時の発言が矛盾する。発言と行動が矛盾する。そういった矛盾は、特に大きなポイントになります。インサイトを探すということは、これら矛盾が、矛盾しなくなるような本音を探すことです。

インサイトを探す例

例えば、数人で食事をしているときに大盛りのご飯を食べながら「痩せたいんだよね〜」と話す人がいたとします。
行動としては、大飯を食べている。発言では痩せたいといっている。大きな矛盾ですよね。

この発言を、ニーズと呼ぶことがあります。この表面的な発言に足を取られると、開発は大失敗します。
表面的なニーズではなく、インサイト「その人を突き動かす本音や、実現したいこと」を探すことが大切です。

先程の「数人で食事をしているときに大盛りのご飯を食べながら、痩せたいんだよね〜と話す人」の行動と、
発言の矛盾を解消しようとすると、どのようなインサイトが当てはまるでしょうか?

例えば「一緒に食事をしている人と、同じ悩みを共有して、連帯感を高めたい」ということかもしれません。
本当に痩せたいわけではなく、一緒に食事をしている人がなんとなく共感できる話題を提供して、
「そうだよね〜」「健康診断の結果が・・・」 「うわっ。来週検査だよ〜」「てか。痩せたいなら食べるなよ!」「いやいや、そういうわけには笑笑」というたわいも無い会話をしてお互いの連帯感を高めたい、ということであれば、バクバク食べているという行動と、発言に矛盾はなくなります。

大切なことは、インサイトは本人に確認しなければ分からない仮説だということです。
本人すらはっきりと意識しているわけではないことなので、本人でもない新規事業やDXを考えている人が確実な正解を、検証することなく見つけることは不可能だということです。

これは構造上の問題であって、スーパーマンでも解決できません。
一方で、矛盾を綺麗に説明できてしまうような、インサイトらしきものを探すことは、本人でなくてもできます。

インサイトを探すとは、仮説を作ること。
質の高い仮説とは、1つのインサイトで、多くの発言や行動、またそれらが矛盾していることが整理できるようなものです。

では次に、具体的な事例で分析の仕方をごお紹介します。

自民党ハンコ議連の議員さんのインサイトとは?

ここでは、ABEMA Primeのある番組かを観ながら、一番深いインサイトの探し方を見ていきます。
ここでは例として、ハンコ議連の城内議員のハンコに対するインサイトを探ります。
城内議員は、なぜハンコが大切なのか。ハンコという道具を使い、彼は何を実現したいのか。
それを探していきます。

まず、こちらの動画を見てください。(約23分)
【ハンコ問題】ひろゆき × はんこ議連会長代行が討議!リモートワーク時代にハンコは必要なのか?
https://www.youtube.com/watch?v=DUJMxXYEqLo

さすがは企画して制作された番組。おもしろい。
さて、城内議員にとってなぜハンコが大切なのかを、インサイトサークルを使い分析していきます。

城内議員の発言で矛盾していた代表例を3つ挙げます。
・個人の意思を担保←→他人に貸せて便利
・ゆうパックはサイン←→重要な書類はハンコ
・多様性を認めるべき←→クマちゃんのハンコは馬鹿

普段は矛盾を笑い飛ばしますが、インサイトを探すときは重要な手がかりとなります。
インサイトサークルでは、このように矛盾する発言が、実は矛盾していない合理的な発言だと捉えるためのインサイトを探します。
なおインサイトは、本人に確認をしないと検証できないので、正確には仮説です。筋の良い仮説は、これらの矛盾が1つのインサイトで説明できるものです。
いくつか仮設のアイディアを出してみてください。

では、Bethではどう考えるのか?
私たちであれば、城内議員を突き動かす本音や実現したいことは、「俺が決めたことの証が手間なく出回る状況」だと考えます。そしてこれを、インスタント権力と名付けました。
語源は、手間なくラーメンが食べられるインスタントラーメンです。

次に、インスタント権力というインサイト仮説の質を検証してみましょう。

まず、インスタント権力をインサイトサークルの中心に置いてみます。
「俺が決めたことの証が手間なく出回る状況」を実現したいのだとすると、矛盾する発言が、合理的だと思えるように整理できるでしょうか?

・個人の意思の担保←→他人に貸せて便利
自分が決めたと権力を誇示したいので、ハンコが意思の担保として使えることが大前提である(なので、一番最初に理由として発言した)。
権力を誇示したいが手間のないインスタントな方がいいので、他の人がポンポン押印してくれると楽でいい。

・ゆうパックはサイン←→重要な書類はハンコ
ゆうパックが受け取ったことを他人が見ても、誰も権力を感じないので、サインでもいい。
権力とは重要なことを決められること。なので、重要なことほど自分が決めたことを色んな人に知って欲しい。

・多様性を認めるべき←→クマちゃんのハンコは馬鹿
荷物の受領や、どうでもいい書類はサインでも、100円均一の認印でもなんでもいい(多様性があっていい)。
クマちゃんのハンコだと、誰が決めたのか名前がわからないので権力が伝わらない。もったいない。バカだ。

城内議員の矛盾する発言は、彼が、「俺が決めたことの証が手間なく出回る状況」を実現することを目指しているのであれば、合理的な発言として整理できました。
そのため、このインスタント権力と名付けたインサイト仮説は、質の高いといえます。
ただしこれは仮説でしかないため、城内議員本にインタビューしないことには確定しません。

検証段階でのインタビューで直接、「城内議員、あなたは「俺が決めたことの証が手間なく出回る状況」を実現したいのですか?」と真正面から聞いても答えてはくれないでしょう。
だからこそインタビューの進め方や、スキルが重要になります。

インサイトの定義と人の行動原理を明らかにすることで「インサイトを探す」という抽象的な目的をはっきりさせ、次に実際にインサイトを探す過程を通じて行動をはっきり説明しました。

今回使った事例では、ネットTV番組を使ったトレーニングでしたが、実際のプロジェクトでは、インタビュー結果を見ながら一緒にインサイトの候補を探しにいきます。

慣れれば、簡単にできるようになります。

PoCをしてアンケートやインタビューをしたけれど、
そこで検討が止まっているとお困りでしたら、ぜひ一度ご相談ください。

考える材料はあるので、ぜひ当たっていそうなインサイトの候補を探し、最短距離で走り抜けましょう。