DXの成功のために経営者がするべきこと|必要なのは創業し直す覚悟

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私が書きました 河上 泰之

「DXを成功させたいが、経営者が考えるべきことは一体なんだろう?」
「どうすればDX推進を成功させられる?」

このようなお悩みをお持ちではありませんか?

DXを成功させるために重要なのは、経営者が「創業し直すくらいの覚悟を持って取り組む」ことです。

その上で、経営者・社員全員で目指すべきゴールをそろって認識することができれば、DXは成功します。

そのためには経営者が目指すべきゴールを明確にすることが必要です。

ゴールを明確にすると言うのはわかりやすく言うと、「東京で待ち合わせ」ではなく「東京の渋谷駅で待ち合わせ」。もっと言うと「東京の渋谷駅のハチ公前で待ち合わせ」のように、目的地をはっきりさせることです。「東京で待ち合わせ」と言われてハチ公前に集合するのは不可能ですよね。

ただし、単にゴールを明確にしただけではDXを成功させることができず、経営者はゴールに向かって組織を作り直したり、経営者自身がDXに必要な知識を学び、変化する意識を強く持つ必要があります。

そこでこの記事では、以下のことをお伝えします。

【この記事でわかること】

  • DX成功のために経営者がするべきこと
  • DXの基礎知識
  • 日本企業のDX推進の現状
  • プライム上場企業から老舗まで:DXの進め方と経営者の役割
  • DX成功のために重要な経営者の姿勢
  • DX推進の成功事例2選

御社のDXを成功させるために、ぜひ最後まで読み進めてください。

1.DXを成功させるために経営者がするべきことは「創業し直す覚悟を持つこと」〜DXの基礎知識〜

冒頭でもお伝えしましたが、DXを成功させるために経営者がするべきことは「創業し直す覚悟をもつこと」です。その上で、経営者・全社員で共通のゴールを認識して目指す必要があります。

この章では、「創業し直す覚悟をもつ」とは具体的にどういうことなのかをお伝えするとともに、DXの基礎知識をとして以下のことをお伝えします。

  • DXの定義
  • DXに欠かせない4つのキーワード
  • DXの成功の鍵は「デザイン」

1-1.DXを成功させるための「創業し直す」覚悟とは

DX:Degital transformationの「transformation」という単語は、生物学用語の「変態」という意味です。「変態」とは、毛虫が蝶になることです。

そのためDXを意訳すれば「デジタルを使うことを前提として、いまの仕事を作り直す」ということです。毛虫が毛虫のままより高速、かつ大量に葉っぱを食べられるようになっても、それは「transformation:変態」ではありません。地面を歩いていたところから、空を飛ぶように変わる。そのように、ビジネスの構造そのものをガラガラポンする、創業をし直すぐらいの覚悟が必要です。

「IT化すればDXを成功させられる」
「コンサルタントに任せればOK」
「DX担当の部署を作ってやらせればいい」

と考えている経営者の方。DXはそんなに甘いものではありません。買ってきたり、誰かに任せてできる仕事なら、日本中で利益創出の成功事例ができ、金融政策に頼らずとも株価は暴騰します。そんなニュース、ありましたっけ。

冒頭から何度も繰り返していますが、DXを成功させるためには、

経営者が「創業し直す」覚悟、つまり第二の創業をする覚悟を持ち、経営者自身がDXを学び、経営者自ら現実と向き合い、変わる

これが重要です。

では、「創業し直し」とは具体的にどういうことなのか、考えてみましょう。

例えば、これまで作ってきた業務プロセスや雇った社員、購入した固定資産など抱えているたくさんのものを捨てて新しい状態に変化することです。

創業から歴史がある会社は、創業以来の基本方針を見直し、必要ならば現在の仕事を止め、デジタルを前提とした業務体系を0から作り上げることを指します。

しかし既存会社が、今あるものや仕組みを捨てるのはとても難しいことです。

難しさについては、以下のようにまとめられます。

既存企業のDXの難しさ

  • 人、不動産、ITシステム・経営方針・業務マニュアルなどたくさんのものを、良かれと思って買って抱えている。断捨離は簡単ではない
  • 人が行っていた業務を一部デジタル化しても大きな意味はなく、デジタル対応の分手間が増えるだけで利益率は向上しない
  • 作ってきた事業・業務フロー・雇った人、購入した固定資産を法人から切り離すことができず、それらを維持することが法人の目的になってしまいがち
  • 新規事業の創出に挑戦しても、既存法人の枠組み内での挑戦に閉じがち

このような難しさを乗り越えなければいけないことを、経営者は強く意識してDXに取り組んでください。

繰り返しになりますが、DXは人任せにして成功できるものではなく、買って来ればそれで完了するような甘い世界ではないことを、経営者自身が認識することがDX成功の絶対条件です。

1-2.DXの定義

そもそもDXが現在のように流行ったきっかけは、経済産業省がDXに関するレポートを発表したことにあります。

経済産業省のDX推進ガイドライン(2018年12月)によると、DXは以下のように定義されています。

【日本でのDXの定義】

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、

データとデジタル技術を活用して、

顧客や社会のニーズを基に、

製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、

業務そのものや、プロセプロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

参照:経済産業省DX推進ガイドライン

この定義、読んでもなんのことかよくわからない人がほとんどだと思います。わかりやすく噛み砕くと以下のように解釈できます。 

DXの正しい定義

要するに、

「競争に勝って生き残るために、新規事業を始めるとともに、業務改革や組織改革を進め、人に役立つデザインを常に意識しながら、ITやデジタルを活用しましょう。」

と言うのが、経済産業省のDXの定義になります。

弊社Bethでは、ITシステムを売ることが仕事のIT企業がいうDXの定義よりも、経済産業省のフラットな定義を推奨しています。

1-3.DXに欠かせない4つのキーワード

DXについて考える上で、欠かすことができない4つのキーワードがあります。4つのキーワードは以下の通りです。

  • 新規事業
  • デザイン 
  • 業務改革
  • IT化(デジタル)

この4つのキーワードは、1-2.DXの定義の最後にお伝えした定義の要約、

「競争に勝手生き残るために、新規事業を始めるとともに、業務改革や組織改革を進め、人に役立つデザインを常に意識しながら、ITやデジタルを活用しましょう。」

で出てくるワードです。

DXは、これらのキーワードが1つでもかけると成功しません。これらのキーワードが複雑に絡み合っているものがDXです。

どんな形でもいいから新規事業を始めればいいと言うわけではないし、単に業務体制を変えればいいと言うわけでもない。

一番勘違いが多いのはIT化に関してです。電子ハンコにしたりFAXをなくすことは、ここでいう「IT化」ではありません。また、単純にデジタル化すればいいと言うわけでもありません。

新規事業・デザイン・業務改革・IT(デジタル)の全てを絡み合わせて取り組む先に、DXの成功はあります。

1-4.DXの成功の鍵は「デザイン」

DXの4つのキーワードをお伝えしましたが、DXも新規事業も、成功の鍵は「デザイン」です。デザインが悪ければDXが失敗する可能性が高くなります。

なぜなら、デザインとは役に立つものを作ることであり、役に立たないものを人は絶対に買わないからです。(デザインが悪い、つまり役に立たないものを作っても、そりゃぁ売れない)

では、「デザイン」とは一体なんでしょうか。

デザイン=人の役に立つ

デザイン≠見た目の良さ

ここで言う「デザイン」は、見た目の問題ではなく、人の役の立つかどうかが問題になります。

「デザイン」が悪いものの具体例を挙げてみましょう。

こちら、セブンイレブンのコーヒーマシンです。

セブンイレブンのコーヒーマシンのデザイン例

後付けの説明がないと使いこなせないこちらのコーヒーマシンは、「デザイン」が悪い例と言えます。

見た目はいいけど、説明を付け加えないと使えない=人の役に立たない「デザイン」の失敗例です。

このコーヒーマシン、セブンイレブンが開発してセブンイレブンの店舗でのみ使われているものなので、全国各地で目にします。しかし、もしあなたが店頭に置く用のセルフコーヒーマシンを探しているとして、「このコーヒーマシンいいですよ!セルフ用で導入してください!」と売り込まれたら、買わない人が多いのではないでしょうか。

このように、デザインが悪いと人の役に立たないし、人に買いたいと思ってもらえません。

つまりビジネスの根幹である「買う」という行為を引き出す「デザイン」は、DXを成功させる上でとても重要な鍵と言えます。

2.日本企業のDX推進の現状

経済産業省が「日本はDXしないと沈没する。2025年が期限だ。気合い入れて、変革してくれ!」と、DX推進を一生懸命進めたいのに反して、日本企業ではDXが思うように進んでいないのが現実です。

独立行政法人「情報処理推進機構(IPA)」が2021年10月に発表した「DX白書2021」に、日本とアメリカのDXへの取り組みを比較した資料があるので、みてみましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進気候(IPA)「DX白書2021

上のグラフによると、「全社戦略に基づき、全社的にDXに取り組んでいる日本企業」は全体の21.7%しかありません(グラフの青い部分)。それどころか、43.5%の企業が「取り組んでいない」もしくは「わからない」と回答しました。(グラフの水色とベージュ部分)

この結果はアメリカのDXへの取り組みと比較すると、とても大きな差があります。

「DX白書2021」には、業種別のDXへの取り組み状況も掲載されています。現状をみてみましょう。

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)「DX白書2021

日本とアメリカの取り組み状況を比較すると、どの業種も劣っていることがわかりますが、「流通業、小売業」と「サービス業」はDXへの取り組んが著しく進んでいないことがわかります。

2020年からはじまった新型コロナウィルスの影響で、生活のあらゆる場面でデジタル化が進んだにもかかわらず、日本企業の大半がDX推進に消極的なのはなぜでしょうか。

原因として以下の2つがあげられます。

  • DXに対する理解が足りていないから
  • 経営者・経営陣が決断できないから

まず、日本企業の経営者は、DXに対する理解が圧倒的に足りていないことがあげられます。

1-2.DXの定義でお伝えしたDXの根本的な定義をしっかりと理解できておらず、単に業務効率化を進めたり、単にデジタル化してコスト削減を図ろうとする経営者が多々見受けられます。本当にコスト削減をするのなら、最後は人員整理(解雇だけではなく、別の儲かるビジネスへの配置転換し利益を創出させることも選択肢の1つ)が絶対に必要です。これができなければ、定時に帰れるようになってよかったねで終わってしまい、株価や企業価値は向上しません。

1-2.DXの定義でお伝えした通り、新規事業・デザイン・業務改革・IT化全てを絡み合わせて取り組む先に、DXの成功はあるのです。

また、DXを成功させるためには、経営者・経営陣の変革の意識が大変重要ですが、決断ができないままに、”空気感”でなんとなくDXに着手してしまい、結果ベンダーの過去最高益に貢献するも自社のDXは進まない、という企業は数多あります。でも、決断がそんなに簡単にできたら、誰も苦労しませんよね。決断の秘訣を教えます。

1章でもお伝えしましたが、DXを成功させるためには、経営者は「創業し直す覚悟」が必要です。なぜなら、今ある収益や作り上げてきたビジネスシステムは、時と共に劣化します。これにしがみついていてはジリ貧だからです。

ただ、ジリ貧だといっても「貧していく速度」には当然ながら差があります。廃れるのが早い業界、早い地域、遅い業界、遅い地域があります。遅い場合で、自分の世代は逃げ切れるし、逃げ切って法人を閉じようと決めれば、DXなんて取り組む必要はありません。あくまでも法人を継続させるための1つのやり方が、デジタルトランスフォーメーション、ということです。

そう、創業しなおす覚悟をもちDXを断行する決断をする決断の裏には、経営上の強い理由が必要になります。弊社Bethのクライアントでは、プライム上場企業ですが2040年代には人口減少で既存事業の主軸の売上が0になることが、公共機関の分析から強く示唆されています。変わらなければ、潰れます。

そのため、既存事業から最大限利益を上げるためにデジタル前提での業務フローへの転換と、新規事業検討を行っています。

経営上の理由は、なんでも良いです。逆に言えば、経営上やる理由のないDXは、進める意味もないので止まります

繰り返しますが、DXを成功させるためには、時にはリスクを取り、多種多様な価値観や意見を受け入れなければいけません。そのためには、やらざるを得ない理由が必要なのですが、その理由が掴みきれていない経営者が日本には多く、国全体としてDXがなかなか進まない原因になっています。経営者であるあなたが悪いわけではないですし、悩んでいるのは、決してあなたただけではありません。

3.プライム上場企業から老舗まで:DXの進め方と経営者の役割

DXを進める場合は、「経営者が法人としてどうしたいのか」という点が全てと言っても過言ではありません。つまり経営者がゴールを明確に示せるかどうかが重要です。

重要なことは、これは企業規模を問わないということです。先に書いた通り、「法人としてなぜDXを行うのか」この理由がわからないままに、「社長でしょ。決断して」と言われても困ってしまいます。我々も一人の人間です。

何かしらの組織を率いたことがある人は、どこかで孤独を感じたことがあるものです。そして、「法人としてどうしたいのか」この悩みは社長しか背負えない、孤独な戦いになります。

この章では、DXの進め方を具体的にお伝えするとともに、経営者本人が行うべき役割をお伝えします。

進め方は以下の通りです。

  1. 事前準備
  2. 法人を変えなければいけない経営者としての理由を明確に持つ
  3. DXの自社なりの定義を定める
  4. 目的次第で、自社ビジネスの完全コピー版の創業し直しか、新規事業で稼ぐことを目指す
  5. 法人としての姿、形が変わる中で、その法人は何をする集まりなのかを再定義する
  6. 人事制度を新しい会社に合わせて作り直し、新人や中途を新しい方針に合わせて採用していく

進め方の中で経営者本人が行うべき役割をお伝えします。それぞれ詳しくみていきましょう。

3-1.事前準備

DX推進を始める前に、事前準備を行います。

事前準備は、社長とDX推進を推し進められる有志が行います。

経営者がするべきことは、「個人としてやりたいことを自問自答して明確にすること」です。

組織としては、変化の前の予備的動きとして、有志でDX推進について検討を開始します。そしてその検討結果を経営者として受け取ってみて、やりたいか、やりたくないかを考えてみてください。ちょっとかすってるな、という場合もあるはずです。そういう時は、何が良くて、何が違うのかをぜひ無理矢理にでも言葉にしてみてください。最初は綺麗な文章にはならないものですが、何度も繰り返してみてください。

ここで最も重要なのは、経営者の役割です。必ず自分自身でビジョンを考えて持つようにしましょう。ただし、ここはまだ準備です。有志のチームにも準備だと明確に伝えて、ゆらゆらと「やりたいこと」を考えてみてください。

3-2.法人を変えなければいけない経営者としての理由を明確に持つ

このステップは、経営者自身が1人で行わなければいけません。

法人を変えなければいけない経営者としての理由を、明確に、厳しい目で考えてください。

「数年後には売上が半減しそう」という程度では生ぬるいです。半減するとどうなるのかや、半減しているような状況の会社を経営したいのか。また「このままいけば倒産する」くらいのことを視野に入れた理由づけが不可欠です。誰かのためにではなく、自分のための理由をぜひ明確にしてみてください。

もしくは、すごく前向きに変わることを宣言しましょう。(5.DX推進の成功事例でお伝えする寺田倉庫のようなレベル)

繰り返しになりますが、これは他の誰でもなく経営者自ら行うことが必須です。自ら考えられないようでしたら、DXは成功しないということを念頭におきましょう。

3-3.DXの自社なりの定義を定める

DXの自社なりの定義を定めましょう。

  • 何を目的とするのか
  • その目的を達成するための手段は何か
  • 固有の手段を選択するので必然的にやることは何か

「何を目的とするか」は、経営者自身が考えなければDXは成功しません。

例えば、経済産業省の定義を下敷きにすると、このようなことを考える必要があります。

「競争に勝って生き残るために、新規事業を始めるとともに、業務改革や組織改革を進め、人に役立つデザインを常に意識しながら、ITやデジタルを活用しましょう。」

・我々の会社は、誰との競争に勝ちたいのか?

・我々の会社が生き残るために、改革として何を捨てられるのか?

・もしも新しいビジネスをやるとしたら、どんなことをやりたいか?逆に何はやりたくないか?

・新しいビジネスをやるために、新しい法人を作るのも選択肢としてはありか?

なんのためにDXをやるのかについて、経営者自身が考えて明確な答えを出してください。

3-4.目的次第で、既存事業を残しながら新規事業または既存事業をやめて新規事業で稼ぐことを目指す

3-3.で決めた目的によって、既存事業を残しながら新規事業を始めるのか、既存事業をやめて新規事業で稼ぐのかを決めます。

いづれにしても、デジタル前提で全ての業務マニュアルを書き換えます。一気に書き換えることは難しいので、まずは50%程度を目指して止められる業務を徹底して止めて範囲を減らしながら進めましょう。

既存事業を残しながら新規事業を始める場合は、20%程度ならすぐに業務を減らせるので、既存を減らしつつ新規事業を進めます。20%減とは、祝日があって4日しか営業日がない週と同じになるということです。祝日があるたびに業務が破綻している会社でない限り、20%を止めるのは簡単なことですし、毎年みなさんは何度も経験していることです。

既存事業をやめて新規事業を始める場合は、事業が売れるうちに売却することを選択肢の1つとして検討しましょう。必要があれば、不要な人材を手放すことも検討しなければなりません。

これらの作業は、外部の専門家に依頼しても問題ありませんが、「創業し直し」として行うので、「外注すればとりあえずことが進む」というような甘い考えで外注するのは危険です。注意して主体的に進めるためにベンダーを道具として雇いましょう。

3-5.法人としての姿、形が変わる中で、その法人は何をする集まりなのかを再定義する

法人としての新しいあり方について再定義する必要があります。

まず考えるべきことは機能体なのか、共同体なのかについてです。

機能体と共同体には上記のような違いがあり、どちらよりの組織にするのか決める必要があります。組織は、あくまでも人間の目的を果たすための道具です。より都合の良い文化の組織を選びましょう。

また、やるべきこととやらなくてもいいことは一体何なのか。人材整理は必要なのか。新しい形に合わせて整理する必要があります。

3-6.人事制度を新しい会社に合わせて作り直し、新人や中途を新しい方針に合わせて採用していく

最後のステップです。ここまでくるとDX推進は一旦一息つけます。

人事に関することは一番難しいと言っても過言ではありません。

業務マニュアルをデジタル前提で更新し直し、かつDXの目標が見えてきたら、人事制度を修正しましょう。人事制度は全てを固定化する元凶なので、とにかく変えることが重要です。

なので、新しい事業・新しい会社に変わるのであれば、必然的に人事制度も作り直しましょう。

4.DX成功のために重要な経営者の姿勢

3章では、DX推進で経営者自らがするべき実務的なことを交えながら、DXの推進方法についてお伝えしましたが、ここではもっと根本的な「経営者の姿勢」についてお伝えします。

DXを成功させるためには、経営者は以下の姿勢で臨むことが重要です。

  • 革新を受け入れるマインド
  • 権限を一握りにせず任せる
  • 適切な評価をする
  • 現場と同じ目線を持つ

それぞれ詳しくみていきましょう。

4-1.革新を受け入れるマインド

DXを成功させたいなら、経営者は革新を受け入れるマインドを持たなければなりません。

繰り返しになりますが、DXとは「創業し直し」です。つまり現状から変化しないDXなんてありえません。

例えば、今の収益に固執して事業形態の見直しができなかったり、創業からの歴史に囚われたり、同族会社の場合は親のやり方を変えられなかったりすると「創業し直し」はできません。

今まで考えもしなかった考え方や方法をどんどん取り入れる。新しい価値に抵抗感を持たない。経営者自らが革新に前向きなマインドを持ってDXを進める姿勢が重要です。

4-2.権限を一握りにせず任せる

DXを成功させたいなら、権限を一握りにせず、組織の自立性・自発性を尊重し育てようとする姿勢が必要です。

DXは経営者・社員全員がDXの必要性を感じながら、自発的に行動し、一丸となってゴールを目指さなければならないからです。DX推進を牽引するのはもちろん経営者ですが、組織全員で目的意識を持って行動する必要があります。その過程で組織を離れる人が出ても、それは仕方ありません。これまでの苦労をねぎらい、離れる方にとって最高の船出を用意することが、経営者の果たすべき責任です。

3.プライム上場企業から老舗まで:DXの進め方と経営者の役割で、企業規模を問わないDXの進め方をお伝えしましたが、過程全てを経営者自らが権限を持って判断しなら取り組むのは不可能です。また、経営者が権限を掌握していると、確実に革新しづらくなります。(経営者にとって既存のものを変えることはそれほど難しいということです。)

時には権限をわたして、任せてみることで、組織も成長し、いい結果につながるでしょう。

4-3.適切な評価をする

DX推進で新しい挑戦をする部門の社員に対して「適切な評価」をすることは、DXをスムーズに進めるポイントです。

DX推進に立ち向かうメンバーの苦労は計り知れず、適正に評価されないことで不満がつのるからです。慣れない業務へのストレスは計り知れません。

DX推進や新規事業などに取り組むメンバーは、それまではすでにある業務・顧客・実績を頼りに仕事をしていた人たちです。しかしDX推進のメンバーになったことで、新たにそれらを作ることが仕事になりました。

業務内容や、やるべきことの難易度が変わったにも関わらず、既存事業と同じ指針で評価されると、モチベーションは下がります。

DX推進を担う部門のメンバーに対しては、既存の評価ではなく、即席で良いのでDX推進メンバー向けに新しく作った指針で評価しましょう。

4-4.現場と同じ目線をもつ

DXを成功させるためには、経営者・経営陣は現場と同じ目線を持つことがとても重要です。

目線を合わせないと、現場と経営陣の間にDXに対する意識や感覚の違いが生まれ、経営者と現場にギャップができ、一つのゴールを会社全体で目指せなくなるからです。

経営陣と現場のギャップを埋めるためには、4-1.〜4-3.でお伝えしたことを実行するほか、経営陣は現場に歩み寄りコミュニケーションを取ることが重要です。また、社員に自社が置かれてる状況をしっかり把握させ、自社にとっていかにDXが必要か、DXを行う理由をしっかり認識させることも効果的です。

「全社員が自社にとってのDXを理解し、同じゴールに向かって進む」ことができるように、まず経営陣が努力する必要があります。

5.DX推進の成功事例 2選

最後に、DXの成功事例を2つご紹介します。

経済産業省のDXの定義「競争に勝って生き残るために、新規事業を始めるとともに、業務改革や組織改革を進め、人に役立つデザインを常に意識しながら、ITやデジタルを活用しましょう。」を念頭におきながら事例をみると、DXの本質がより理解できます。

それでは早速成功例を見ていきましょう。

5-1.寺田倉庫

出典:寺田倉庫

寺田倉庫は、B2Bからb2cに転換し、DXを成功させた倉庫業者です。

1950年に米倉庫として創業した寺田倉庫は、一般的な倉庫業としてトランクルームや文書保管などの事業に取り組んでいました。

しかし価格競争激化に苦戦ししたため、美術品や貴重品、ワインの保管サービスを始めます。

2012年には創業家以外の人材を社長に迎え、DXを推進。主に行ったことは以下の通りです。

  • 勝ち目のない事業からの撤退
  • 社員を14分の1に削減
  • 付加価値の高い事業に重心をうつす(高級ワインや美術品、コレクションの保管)
  • 厳重な温度、湿度管理及びセキュリティー管理できる倉庫
  • ソムリエや美術品の専門家を配置
  • 楽器専用保管
  • b2c向けサービス「minikura」開始

中でも革新的だったのが、新規事業「minikura」です。

「minikuraHAKO」では、利用者は預けたいものを段ボールに入れて寺田倉庫に送ります。利用者は保管期間に応じて料金を支払います。(3辺合計120cmで月額250円)。収納が少ないマンション暮らしの人などにとって便利なサービスとして受け入れられました。

さらに画期的なのが「minikuraMONO」です。「minikuraMONO」では、倉庫に送った箱の中身を寺田倉庫が一旦開封し、中身を撮影して利用者の専用ページにアップしてくれます。利用者は専用ページから必要に応じて商品を取り出すことができるのです。

「顧客の荷物を開封しない」のが倉庫業界の常識ですが、寺田倉庫はその常識を破り新しい発想で新規事業を成功させました。

5-2.宅配専門のゴーストレストラン「ヒーローズキッチン恵比寿」

コロナの影響で、飲食店では宅配ビジネスが全盛期を迎えています。従来は、既存のレストランや飲食店がテイクアウト用のメニューを店舗で調理し、配達員が運んでいました。そんな中、コロナ禍で広がり成功を納めているのが配達専門の「ゴーストレストラン」です。

「ゴーストレストラン」とは、客席を持たずデリバリーのみで顧客に料理を提供する飲食店のことです。Uber Eatsをはじめとするデリバリーサービスが広がったことで、飲食店は客席を持った店舗にこだわる必要がなくなったため、「ゴーストレストラン」が広がりました。

ゴーストレストラン「ヒーローズキッチン」は、わずか13坪の地下キッチンで、元々別々に運営していた3つの事業者が共同運営として開始したゴーストレストランです。月商は3事業体合わせて1,100万円以上と大成功を納めています。

ヒーローズキッチンの特徴は以下の通りです。

  • 調理場を共有化することで、配達員の効率も向上する
  • 共同にすることで初期投資も抑えられる
  • 居酒屋の居抜き物件を活用したため、初めから調理設備がある程度整っていた
  • UberEatsなどの配達業者に委託することで、自社で配達システムを整える必要はなく、わずか数万円のIT投資で事業をスタートできる

大金をかけずとも、ビジネス上の大成功を得る。

ゴーストレストラン「ヒーローズキッチン」はまさにDXの成功例と言えるでしょう。

6.まとめ

この記事では、DXの基本情報、DXを成功させるために経営者がどうあるべきか、企業規模問わずDXの進め方、DXの成功例などをお伝えしました。

最後にDXを成功させるために経営者が強く意識しなければいけないことをもう一度お伝えします。

DXとは、「創業しなおし」です。ITベンダーから買い物をしたら終わるような甘い世界ではありません。なので、きちんと学び経営者自らの力できちんと現実と向き合い、変化しましょう。

あなたの会社のDXが成功することを願っています。

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