「デザイン思考のダブルダイヤモンドってどんなもの?」
「5つのステップがうまくいっていないんだけど、ダブルダイヤモンドを使うのはどうかな?」
このような疑問をお持ちではありませんか?
ダブルダイヤモンドとは、イギリスのデザインカウンシルによって提唱されたデザイン思考の方法論の1つです。イギリス風デザイン思考とも呼ばれます。
そのモデルは、デザインとイノベーションのプロセスを2つのダイヤモンド形状で視覚的に表現されていて、「発見する」「定義する」「開発する」「届ける」の4つの段階に分かれています。
参考:デザインカウンシル「ダブルダイヤモンド」
デザイン思考といえば、アメリカ発祥のアメリカ風デザイン思考「5つのプロセス」がありますが、ダブルダイヤモンドも5つのプロセスと同じく、人の役に立つものを追求します。
ただし、5つのプロセスと比べてダブルダイヤモンドは使いこなすのが難しく、初心者には向いていません。5つのプロセスを使いこなせるようになった人に向いている方法論です。
本記事では、デザイン思考のダブルダイヤモンドについて、以下のことをお伝えします。
この記事でわかること |
・イギリス風デザイン思考のダブルダイヤモンドとは ・ダブルダイヤモンドを使った問題解決事例 ・ダブルダイヤモンドは使えるフレームワークなのか? ・デザイン思考の熟練者ならダブルダイヤモンドを使うのもあり ・ダブルダイヤモンドを使う際の注意点 |
デザイン思考の専門家で、人気講師である私、河上が、ダブルダイヤモンドについて詳しく解説します。
また、デザイン思考の5つのステップがうまくいっていなくてダブルダイヤモンドを使いたいと思っている人の悩みも解決できます。最後まで読み進めてください。
1.イギリス風デザイン思考のダブルダイヤモンドとは
まずダブルダイヤモンドの概要について、理解を深めていきましょう。この章でわかることは、以下のとおりです。
・ダブルダイヤモンドとはデザイン思考の方法論の1つ ・ダブルダイヤモンドの使い方 ・ダブルダイヤモンドと5つのステップの違い |
ダブルダイヤモンドとは何かを理解して、デザイ思考におけるダブルダイヤモンドの位置付けについて把握していきましょう。
1-1.ダブルダイヤモンドとはデザイン思考の方法論の1つ
ダブルダイヤモンドとは、イギリスのデザインカウンシルによって提唱されたデザイン思考の方法論の1つで、人の役に立つものを追求する問題解決手法です。イギリス発祥のデザイン思考なので、イギリス風デザイン思考と呼ばれています。
ダブルダイヤモンドの詳しいプロセスはツールキット化されておらず、基本的に言語化されていませんが、以下のような2つのダイヤモンドで可視化されています。
参考:デザインカウンシル「ダブルダイヤモンド」
ダブルダイヤモンドは、上の画像の通り、発散と収束のプロセスが繰り返されるのが特徴です。
はじめに問題を広く捉え(発散)、次に問題を定義して絞り込みます(収束)。その後再び解決策を広く考え(発散)、最終的に実行可能な解決策に絞り込んでいきます(収束)。
1つ目のダイヤモンドで、まず正しい問題を見つけて定義して、2つ目のダイヤモンドで正しい解決策を見つける流れです。
一連のプロセスの中で、人の役に立つもの、人の問題を解決する方法を見つけます。
1-2.ダブルダイヤモンドの使い方
実際にダブルダイヤモンドを使う際は、どのような流れで進めるのでしょうか。理解するために、ダブルダイヤモンドの使い方を見ていきましょう。
1-1でもお伝えしましたが、ダブルダイヤモンドは、「発見する」「定義する」「開発する」「届ける」の4つの段階を踏みます。
参照:デザインカウンシル「ダブルダイヤモンド」最初
各段階をどのように進めるのか、具体的に見ていきましょう。
【発見する】
この段階の目的は、問題や課題を発見し、ユーザーのニーズを深く理解することです。
問題やユーザーのニーズを深く理解するために、リサーチや観察を行います。単に問題が何であるかを推測するのではなく、問題や課題を発見し、ユーザーのニーズを深く理解することが重要です。
具体的な実践では、インタビュー、アンケート、観察、フィールドワークなどを通して、実際の問題から潜在ニーズまで理解していきます。
チーム内であらゆるアイデアやインサイトを広く収集し、できるだけ多くの情報を集めることがポイントです。
【定義する】
この段階の目的は、問題を明確にし、解決すべき焦点を絞ることです。
発見フェーズで得た情報を分析し、根本的な問題や課題を特定して「問題定義文」を作成します。
実践では、ペルソナやカスタマージャーニーを作成し、ニーズをより深く理解していきます。
情報を整理して解決すべき具体的な課題を特定することで、次の段階における焦点を明確にし、効率的な解決策の開発につなげます。
【開発する】
ここでは、前段階で定義された問題に対して創造的なアイデアを出し合い、解決策のプロトタイプを作成します。
アイデアを創出する際は、その質にこだわるのではなくて、できるだけ多様なアイデアを数多く創出することを重視します。その中からいくつか選び、プロトタイプを作成します。
重要なのは完璧を求めないことです。プロトタイプはあくまでも試作なので、実験的な価値を重視します。
デザインカウンシルは、より選択肢を増やすために、明確に定義された問題に異なる答えを与え、他の場所からインスピレーションを求め、さまざまな人々と共同設計することを推奨しています。設計することを奨励します
【届ける】
この段階では、最終的な解決策を選び、実際の製品やサービスとして実装します。そのために、プロトタイプのテストやフィードバックを通じて改善し、最終的な結果を導き出します。
提供のためのスケージュールを立てて、ローンチした後は、フィードバックに基づいて継続的に改善を行い、プロダクトやサービスを進化させます。
ローンチがゴールではなく、改善のスタートとして捉えるのがポイントで、ローンチ後も結果をモニタリングしながら柔軟に対応していきます。
1-3.アメリカ風デザイン思考の「5つのステップ」との違い
ダブルダイヤモンドに興味がある人の中には、同じくデザイン思考の方法論である「5つのステップ」との違いについて知りたい人が多いのではないでしょうか。
ダブルダイヤモンドと5つのステップの大きな違いは、プロセスとツールキットの有無です。
【相違点】
イギリス風デザイン思考のダブルダイヤモンド | アメリカ風デザイン思考の5つのステップ |
「発見する」「定義する」「開発する」「届ける」 ↓ 【ツールキットなし】 | 「共感」「問題定義」「アイデア創出」 「プロトタイプ」「テスト」の5つのステップ ↓ 【ツールキットあり】 |
2つは、どちらもデザイン思考の方法論なので、似ていますが、でも少し違うものです。
大きな違いは、ツールキットの有無にあります。
イギリス風デザイン思考のダブルダイヤモンドは、ツールキットがありません。といっても、人に伝えるためにダブルダイヤモンドという形で手法は視覚化されていますが、「この通りの手順でやってください」のような、詳しくマニュアル化されたものがありません。そのため、初心者が習得するのは非常に難しいです。
例えると、料理を作るとき、「ポイントは真心です。」と言われるのと似ています。素人が、詳しい手順の説明がないまま、「真心を込めて作ったら美味しくなります」と言われてもうまく作れませんが、ダブルダイヤモンドとはそれに似た感じがあります。初心者が理解して習得したり、初心者に教えたりすることが難しい領域です。
一方、アメリカ風デザイン思考の5つのプロセスは、マニュアル化されていて、手順が明確です。
料理に例えると、レシピで手順が明確にされていて、その通りにやれば1品できるようなものです。もしくは、マクドナルドの工程のような、仕組み化されたツールと言ってもいいでしょう。
なので、デザイン思考を使うとき、初心者は5つのステップからはじめて、十分に使いこなせるようになった人が必要性を感じた場合にダブルダイヤモンドを習得する、と認識するといいでしょう。
2.ダブルダイヤモンドを使った問題解決事例
ダブルダイヤモンドは、実際にどのように活用するのでしょうか。一般的にデザイン思考を使った具体的な事例は公開されないので、ここでは以下の2つのケースの活用例をご紹介します。
・ハンコが面倒と言っている人の問題を解決する ・人が引っ越してきてくれない自治体の問題を解決する |
ダブルダイヤモンドを実際に活用する際の流れがわかります。
4-1.ケース1:ハンコが面倒と言っている人の問題を解決する
ハンコが面倒だといっている人の問題を解決する際は、まず「ハンコが面倒と言っている人」にインタビューなどで声を聞いて、情報を集めます。ユーザーについて深く理解していくと、「ハンコが面倒」と言っている人は、ハンコを押すこと自体が面倒なのではなくて、「pdfで送られてきたファイルをわざわざプリントして、ハンコを押すのが面倒」という、本当に解決するべき課題に辿り着きます。
これこそが裏で起きている本当のことで、プリンターを買いたくないから、ハンコが面倒と言っている可能性があることに行き着くと、問題が何かをちゃんと定義できます。
続いて、定義された問題をどう解決するのか、アイデアを創出してプロトタイプを作り、開発します。
できあがったものをどう届けるのかについて考えて、解決策をユーザーに提供します。提供したものは、それで終わりではなく、フィードバックを受けて改善を繰り返します。
「ハンコが面倒」と言っている人の本質的な問題を発見するためには、できるだけたくさんの情報を集めることが重要です。ユーザーの表面的な声に騙されないように、深掘りして情報量を増やします。
ハンコに関する問題を集め(発散)、ハンコが面倒と言っている人の本質について考え定義し(収束)、どうやったら定義した問題を解決できるかアイデアを集め(発散)、実際に提供する(収束)、この4つの段階を踏んで、ハンコが押すのが面倒と言っている人の問題を解決します。
4-2.ケース2:人が引っ越してきてくれない自治体の問題
人口が減少している自治体が抱える問題として、人が引っ越してきてくれないという問題があります。そこで人に「どうして地方に住みたくないのか?」と聞くと、「地方に移住したくない」と、ほとんどの人がいいます。
しかしこれは表面的な問題で、本質的にこの人は何を言っているかというと、「土地の値段が下がり続けるのに、高いお金を払って地方に家を建てたくない。」と言っています。つまり、「土地の値段が暴落するところに人は住まない」と定義できます。
そのような状況の中で、「どうやったら人が引っ越してきてくれるんだろう?」「世帯年収関係なく子育て世帯を支援するとかどうかな?」とアイデアを創出していくのが、開発する段階です。
それをどうやって実装して提供するかが、届ける段階です。
人は表面的に言っていることと、本質的に抱えていることが違います。まず表面的な問題を発見し、その裏にある本質的なことを定義し、アイデアを出して開発し、実装して届ける、この一連の流れの中で、発散と収束を段階的に行うのがダブルダイヤモンドの活用です。
3.初心者はダブルダイヤモンドを使わないほうがいい
ダブルダイヤモンドについて、詳しく理解できたところで、「結局、使うべきなのか?」という点が1番気になるところなのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、初心者はダブルダイヤモンドを使わなくても大丈夫です。
このように言い切れる理由は、ダブルダイヤモンドが教育、学ぶことに適していないからです。
ダブルダイヤモンドは、手順が明確になっていないので、どうやったらゴールに辿り着けるのかわからず、容易に手法を習得できません。
例えば、料理を習うとき、手順の説明なしに「愛情をかければおいしくなりますよ」とだけ言われる感じと似ています。手順の説明があれば、その通りに作ると美味しいものが作れますが、手順の説明を通り越して「愛情をかければ」と言われても、一般の人には美味しいものを作れません。
つまり、ダブルダイヤモンドはツールキットがなくて「この通りやればうまくいく」という手順がないので、使いこなして問題を解決するのはとても難しいのです。料理で言うところの「愛情をかければおいしくなる」と言われて理解できる上級者人にしか習得できません。
【デザイン思考の初心者はアメリカ風デザイン思考の「5つのステップ」が向いている】 初心者がデザイン思考を学習するにあたっては、5つのステップの方が断然向いています。 5つのステップは、プロセスが明確だからです。 5つのステップ、「共感」「問題定義」「アイデア創出」「プロトタイプ」「テスト」をぐるぐる回して仮説検証を繰り返すことで、人の問題を解決策を見つけられます。 もし。ダブルダイヤモンドを使うとしたら、5つのステップの限界レベルまで達したときです。5つのステップを使いこなせていて、尚且つ深掘りすることに熟練している人は、ダブルダイヤモンドを習得できます。 5つのステップを完璧に使いこなしているのにそれ以上の答えを求めるときに、はじめてダブルダイヤモンドを使ってください。 デザイン思考の5つのステップについて、さらに詳しくは、以下の記事をご覧ください。 |
4.デザイン思考の熟練者なら、ダブルダイヤモンドを使うのもあり
前章でお伝えしたとおり、ダブルダイヤモンドは「デザインという行為自体や試行錯誤が当たり前というレベルに到達していて、尚且つ色々な方法論を使ってみたい」という人が学び、使ってください。
個人との相性が合った上で、複雑性が高い問題の時は、ダブルダイヤモンドを使うとよいでしょう。複雑性が高いとは、5つのステップでやってみて、近視眼的な浅い解決策に至ってしまい、「これじゃないよね」という感じになった時です。
このような場合は、ダブルダイヤモンドに進んでください。
なおダブルダイヤモンドは、人が関係するプロジェクトであれば、プロジェクトによって、向き不向きはありません。人の体験に焦点を当てた問題解決の方法なので、「人の問題」であれば、どんな問題でも解決できます。
【アメリカ式デザイン思考の5つのステップがうまくいかず、ダブルダイヤモンドを検討している人へ】 5つのステップでうまくいかず、ほかの方法論としてダブルダイヤモンドを検討している人に今一度考えて欲しいのが、5つのステップでうまくいっていない原因についてです。 本質的にユーザーが言うことを間に受けていると、5つのステップはうまくいきません。 ユーザーは、実は何もわかっていないし、適当なことを言っている場合もあるからです。 なので、ユーザーの声を間に受けるのではなく、「どうしてユーザーはそんなことを真顔で言うんだろう?」という、その理由を深掘りしてください。 そうすれば、ダブルダイヤモンドについて新たに学ばなくても、5つのステップで十分できます。 このことについて詳しくは、私が講師を務める「実況解説デザイン思考」講座で語っているので、ご覧ください。1ヶ月980円(税込)で、デザイン思考を使いこなすことについて学べます。 |
5.ダブルダイヤモンドを使う際の注意点
最後に、ダブルダイヤモンドの注意点をお伝えします。注意点は、以下の通りです。
・ダブルダイヤモンドを5段階と勘違いしないようにする ・ダブルダイヤモンドは型通りにやってもうまくいかない |
事前に把握して失敗を回避しましょう。
5-1.ダブルダイヤモンドを5段階と勘違いしないようにする
ダブルダイヤモンドについて話すとき、4段階であるにも関わらず5段階であると勘違いすると、おかしなことになるので注意が必要です。
ダブルダイヤモンドは、発散と収束を2回繰り返す「4段階」ですが、話しているうちに5つのステップの5段階と勘違いしてしまうことがあります。
ダブルダイヤモンドは「発見する(発散)」「定義する(収束)」「開発する(発散)」「届ける(収束)」の4段階で、5つのステップの「テスト」にあたる段階がなく、評価をしません。
ダブルダイヤモンドと5つのステップを違うものだと認識できている人にとっては当たり前のことなのですが、勘違いしやすい点なので、注意してください。
5-2.ダブルダイヤモンドは型の通りやってもうまくいかない
ダブルダイヤモンドは、型の通りにやってもうまくいかないので、学ぶ際はこの認識を持っておいてください。
ダブルダイヤモンドは、5つのステップと比べて深掘りが必要で、よりデザインに近い方法論だからです。
デザインとは例えば、椅子の足について考えるとき、「椅子の足がなぜ4本なの?」「どうして5本じゃないの?」「どんな足の形が人にとってベストなの?」と、徹底的に深く掘って突き詰めていきます。
しかし、デザイン思考を5つのステップで学んできている人は、ここまで深く掘って理解することをやっていない可能性があります。そのため、多くの人が「4段階やればいい結果が得られる」と思いがちですが、ダブルダイヤモンドはそんなに簡単なものではありません。
このような人がダブルダイヤモンドを使おうとすると、「型通りにやっているのにうまくいかない!」と感じがちなので、そもそもダブルダイヤモンドは型通りにやればうまくいくような方法論ではないことを念頭においてください。
6.デザイン思考を使いこなしたい場合はBethまでご相談ください
この記事を読んで、ダブルダイヤモンドは5つのステップより習得するのが難しく、特に初心者には向いていないことがお分かりいただけたと思います。
ダブルダイヤモンドは、これからデザイン思考を使いたい人や、5つのステップでうまくいっていない人、うまくいかなかった人には向いていません。
そもそも、5つのステップでうまくいっていない人、うまくいかなかった人は、5つのステップを使いこなせていないだけの可能性が高いです。
5つのステップでうまくいかず、前に進めない人は、ダブルダイヤモンドを習得しようとするのではなく、1度Beth合同会社にご相談ください。
私たちは、デザイン思考の中身の話や、デザイン思考を使いこなすための人材育成ができます。
また、デザイン思考が向いている人と向いていない人の判定も可能です。デザイン思考が向いていないと判定された人には、私たちが世界で唯一提供している状況思考(シチュエーションシンキング)を提供します。これは、デザイン思考を使いこなせない人向けの方法論です。
ご興味があれば、ご相談ください。
7.まとめ
本記事では、ダブルダイヤモンドについて詳しくお伝えしました。
ダブルダイヤモンドとは、「発見する(発散)」「定義する(収束)」「開発する(発散)」「届ける(収束)」の4段階で、発散と収束を2回繰り返す方法論です。
もしあなたがデザイン思考の初心者の場合は、習得するのはとても難しいので、5つのステップについて学ぶことをお勧めします。
デザイン思考の5つのステップについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
【人気講師が解説!】デザイン思考とは?考え方、活用方法、ポイントなど
また、5つのステップでうまくいかず、ダブルダイヤモンドを検討している人は、以下の講座でデザイン思考の使い方について正しい方法を確認し、それでもうまくいかない場合はBeth合同会社までお気軽にご相談ください。
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