「メンターの役割って何?」
「メンターの役割を果たすってどういうこと?」
このようなお悩みをお持ちではありませんか?
一般的には、他者を成長させるのがメンターの役割であると言われますが、これは間違いです。
メンターの役割は、他者に業務を完了させること。これが第一です。
業務完了の手段として、他者を成長させることが含まれるのです。
他者とは、部下とは限りません。同僚、上司もありえます。メンターは育成という手段を使って、部下や同僚などが行う何かの仕事を完了させるという目的を達成させます。
ここで正しく認識しなければいけないのが、メンターはメンティー以上に勉強し続けなければいけないということです。メンティーを通じて、学ぶべきことが次から次へと生じるからです。
メンターは教える立場ではなく、実物を見ながら学ぶ立場なので、自分が成長する絶好の機会と捉えて学び続けられない人は、メンターの役割を果たせません。
本記事では、人材育成の専門家である私、Beth合同会社代表の河上が、メンターの正しい役割について詳しくお伝えします。
この記事でわかること |
・メンターの役割とは ・メンターが役割を果たすためにおさえるポイント ・メンターを担う際の注意点 |
社内でメンターを探している人、メンターを取り入れたい人、メンターとしてうまくいっていない人など、メンターについてのあらゆる悩みを解決に導く内容になっています。最後まで読み進めてください。
1.メンターの役割とは
冒頭でもお伝えしたとおり、メンターの役割は、他者に業務を完了させるために、他者を成長させることです。
野球のコーチのようなもので、自らが打席に入って打つことはありませんが、人を打てるように育て上げ、勝てるようにします。
この章では、メンターの役割について詳しく理解して、その役割を果たせるように、以下のことについてお伝えします。
・メンターの目的は成長させることではなく、業務を完了させることが目的 ・メンターがとるべき行動5つ |
この章を読めば、メンターとして活躍するための基礎知識が身に付きます。
1-1.メンターは成長させることが目的ではなく、業務を完了させることが目的
メンターが存在するのは、単に部下などを成長させるためではありません。業務を完了させることが目的で、そのために人を育てます。
メンターの役割として提示されているものの中には、「指導者が知識や経験を共有し、成長を促進すること」のようなものがよくみられますが、これは明確に間違いです。成長を促進することは、目的ではありません。
組織が求めるのは、業務の完了であり、業務が完了しないような成長は無駄です。
メンターの役割は、対象者に業務を完了させることで、業務を完了させるために人を育てる、というのが、正しい解釈です。
1-2.メンターがとるべき行動5つ
「他者に業務を完了させるために、他者を成長させること」がメンターの役割なので、行うべき行動は、以下のとおりです。
メンターがとるべき行動5つ |
1.他者が行う業務の完了基準の有無を確認し、なければ完了基準を定める |
上の行動を実行できていれば、役割を果たせていると言えます。
補足してもう少し詳しくお伝えすると、3は、過去自分がどうやったかではありません。もし進め方が分からなければ、メンター自身が学習し、進め方を理解する状態になります。
4.は、具体的には、実行させて結果を確認し、成否問わずどのようにその段階を理解しているのかを確認します。理解が正しい場合は、実行結果は確率論で成否が分かれるので、成功するまで実行させ続けます。
5.では、自己効力感を判定するために、「不安そう」「楽しそう」「余裕すぎて飽きていそう」の3つのうち、メンティーがどれに当てはまるのかを確認して、楽しい状態になるようにします。
不安な場合は、座学実働含めてメンティー自身の自己能力の自己評価を上げるようにして、楽しい状態に進ませます。また、逆に暇そうな場合は、ハードルを上げて楽しい状態にさせます。
1〜5までを実行していくことが基本ですが、業務を完了することが目的なので、仕事が終わればそれでよいです。
また成長も、4の業務の進め方に合致するように成長する必要はありません。なぜなら、業務が完了すればそれでよいからです。
そのため、1on1で話をする時の話題は、業務完了に向けた話ばかりではなく、雑談でも問題ありません。
業務の話だけだと、業務側で進捗がない場合にその1on1が無駄になるからです。雑談を通じてでも、3で整理している業務完了に必要な行動や、物事の考え方や捉え方について伝えていくことが重要です。
2.メンターが役割を果たすためにおさえるポイント
メンターが「他者に業務を完了させるために、他者を成長させる」という役割を果たすために、おさえておきたいポイントを3つお伝えします。
・行うべき行動5つの1〜5は、一度決めたものをなぞって終わりではない ・「業務完了基準」は流動的で、一度決めたら終わりではない ・過去の自分の行動や思考結果を示すだけでは十分ではない |
メンターとしての役割を果たすために、知っておきたい情報です。
2-1.行うべき行動5つの1〜5は、1度決めたものをなぞって終わりではない
1-2でお伝えした「メンターが行うべき行動5つ」は、滝のように1度流れたら終わりではありません。
業務の内容によって、業務を完了させたと判断できる基準が流動的だったり、はじめはゴールが明確ではなかったものが、徐々に具体的になっていったりする場合があるからです。
抽象度の高い業務の場合は、仕事が進むにつれてゴールがより明確になっていきます。例えば、日本の山に登ることが決まっている状態から始まり、話を進めるうちに高尾山に登るのか、富士山に登るのかが決まっていくような場合が業務でもあります。
高尾山と富士山では、必要な準備が異なるように、業務完了に必要なステップ、行動、物事の考え方や捉え方も変化します。そのため、メンターは1-2でお伝えした「メンターが行うべき行動5つ」の1について、常に業務完了とは何が終わったら終わりなのかを探し続ける必要があります。1が変化すれば、2〜5も変化します。
このことを念頭に置いて、常に変化に対応しながら進めてください。
2-2.「業務完了基準」は流動的で、一度決めたら終わりではない
2-1でも触れましたが、一度決めた業務完了基準を見直さず、変化させることなく進めると、業務が未達となり失敗します。
業務完了基準は、流動的だからです。
例えば、業務完了基準は動き続けるということを理解せずに、一度決めたら終わりだと思っていると、高尾山に登ろうとしていたものを富士山に登ろうと変更したにも関わらず、高尾山の準備で富士山に挑もうとするくらいずれが生じます。
挑もうとする準備、つまり育成として伝える内容(おおまかなステップ、行動、物事の考え方や捉え方)が変化しなければ、業務は達成できないので、見直しながら進む必要があります。
業務完了基準は流動的で、一度決めたらそれで終わりではないということをしっかり認識してください。
2-3.過去の自分の行動や思考結果を示すだけでは十分ではない
この項目は、1-2でお伝えした「メンターが行うべき行動5つ」の「3.現状を踏まえ、完了基準を満たすためのおおまかな進め方(ステップ)と、ステップでの行動や、必要な物事の考え方や捉え方を、言語化して説明できる」についてのポイントです。
メンターがとるべき行動5つ |
1.他者が行う業務の完了基準の有無を確認し、なければ完了基準を定める |
「自分はこうやってきた」や「自分はこう考えてきた」と、過去の自分の行動や思考結果だけを示すことは、メンターとして十分ではありません。
メンター自身の過去の行動の具体例や、考えた結果ではなく、「考え方」を言語化(構造化)して伝えることが重要で、これができるからこそ育成時間を短縮できます。この言語化は、育成速度に直接的な影響を与えます。どういうことか、具体的にみていきましょう。
例えば、メンターが「過去にこういうことをやったよ」「こんなふうに考えてきたよ」と、過去の自分の経験や行動を伝えても、メンティーはそこから「メンターは過去このようにしたんだから、自分の場合は…」と、メンターの経験談をもとに自分の場合はどうすればよいか考えなければいけないので、わかりにくいし、時間がかかります。
そうではなくて、「考え方を構造で捉えて伝える」ことが重要です。これはどういうことなのでしょうか。
例えば、算数の問題が文章で与えられたとしましょう。
「100kmの距離を1時間あたり20kmで移動します。100km先に到達するのは何時間後でしょうか?」この問題の答えは、5時間後、です。
この問題において「考え方を構造で捉えて伝える」とは、「移動時間を計算するための仕組みを教える」ということです。数式だと、「移動する距離÷1時間あたりの移動距離=移動にかかる時間」となります。この構造なので、移動する距離が100km、1時間あたりの移動距離が20kmだとすると、先ほどの構造に当てはめれば、100km÷20km/h=5hと計算できます。
移動時間を計算するための仕組みそのものは変化しません。そのため、メンティーが今困っている問題が、移動する距離が3000kmで、1時間あたりの移動距離が3kmだと、答えは何時間なのだろうというものだとしても、同じ考え方で結論を出せます。これが、教える際の時間短縮の技術です。
やってはいけないのは、過去のメンターの行動を伝えることです。
今の例でいえば、「5時間と答えたよ」と同じです。メンティーが今困っている問題が、移動する距離が3000kmで、1時間あたりの移動距離が3kmだと、答えは何時間なのだろうという場合に、この具体的な「5時間」という回答は、何の意味もないことがおわかりいただけると思います。
このように、メンター自身の過去の行動の具体例や考えた結果ではなく、「考え方」を言語化(構造化)して伝えること。これが、育成を時短する技です。
3.メンターを担う際の注意点
メンターを担う際の注意点は、大きく3つあります。
・メンターが誰よりも勉強する ・常に流動的に動く全てを見続ける ・成長と結果の両方を追い求める |
メンターとしての役割を果たすために、心がけてください。
3-1.メンターが誰よりも勉強する
メンターは教える立場ではなく、実物を見ながら学ぶ立場です。
なぜなら、メンティーと会話すればいくらでも疑問がわくし、伝え方の工夫も必要なので、メンターは学ぶことが極めて多く、また次から次へと学ぶべきことが生じるからです。
メンターは相手から直接頼まれたのならそれは優位なのかもしれませんが、人事や上司に「君、メンター任せた」と言われた程度なら、そもそも普段の学習が足りていません。
学習とは例えば、メンティーに与えられた業務の完了とは一体何をすることなのかを追いかけ続け、必要なステップを検討し、行動、考え方や物事の捉え方を再構築し続けていきます。
また、それらをメンティーに伝えていくためには、とおり一辺倒の伝え方では伝わらないことも数多くあります。そのような時に、相手に伝わるような言い回しや例え話、相手の過去の経験の中で類似することはないかなど、伝わるように工夫すなければいけません。
そのうえで、毎回の面談では、「今日も話していいことがあったな」とメンティーに思わせないと、メンター失格です。メンターとメンティーは、その時間だけは職務上の上下関係なしに対等です。その同列の相手に時間をもらっている以上は、「面白かった」「役に立った」がなければ次には絶対につながりません。
だから、誰よりも勉強して、学び続ける必要があるのです。
1冊でも多く本を読み、1人でも多くと会話し、1つでも疑問に感じてその疑問を解く構造を明らかにします。
なぜこの人には伝わらないのだろう。なぜ行動しないのだろう。なぜ、なぜ、とメンティーと会話すればいくらでも疑問は沸きます。それらは誰かに質問すれば答えの出るような簡単な疑問ではないはずですが、向き合い続けなければいけないのがメンターです。
3-2.常に流動的に動く全てを見続ける
固定したマニュアルで動くメンターは、ダメなメンターです。
業務完了基準や業務完了までの道のりは、流動的なので、本来メンタリングに固定されたマニュアルは存在しないからです。
高尾山に登ろうとしていた計画が、富士山に挑戦することに変わったり、日本の山に登ろうとしか決まっていなかったものが、高尾山に登ろうと明確になったりすることもあります。
なので常に流動的に動くものだと思い、状況把握と次の地点の決定と、そこへ行くための進め方を考える続けることが重要です。しっくりこなければ、学習します。この繰り返しが必須です。
人間は多様で、仕事も多様です。「メンターとは、これをこの順番で話す」というように内容を固定化させることなくメンティーを育成する行動をとってください。
3-3.成長と結果の両方を追い求める
メンターは、「人間とは何か?」ということを考え続けると同時に、業務を完了させるという結果を追い求めることが重要です。
扱う対象が人間である以上、人間とは何かを考え続けなければいけません。人間とは何かを考え続けることに没頭すると、相手を本当の意味で見ることができます。ですが、そうやって相手を見続けると成長に偏りすぎて、業務を完了させることが目的であることを忘れがちです。
そうならないように、「メンティーが与えられている業務を完了させるための道具として、成長させるのだ」ということを常に物事の判断基準におく=人間と結果の両方を追い求めなければいけません。
仕事ができないのに成長した、はあり得ません。そのため、メンティーが与えられている業務を完了させるための道具として、成長させるのだということを常に物事の判断基準においてください。
<仕事をしながらメンターは難しいと感じた人へ> 自分の仕事をしながら、メンターの役割を果たすのは大変だと思った人は、そもそも向いていないので辞退するべきです。 メンターほど自分が成長する機会はありません。ですが、自分が育つつもりで全力を尽くす必要があります。それがメンターという仕事です。大変ですし、とても難しいです。 本記事でお伝えしたような、高いレベルで人を教えて結果を出させることが一般人にはできないので、専門職として1つの仕事が成立します。 社内の素人にメンターを任せて、若手を潰したり離職させたりするくらいなら、専門家を雇うのも1つの手段です。メンターをやりたくない人にとっても、専門家は良い存在だと言えます。 |
4.メンターに関するお悩みは、Beth合同会社にご相談ください
優秀なメンターがいなくてお困りなら、私たちBeth合同会社にお気軽にご相談ください。
Beth合同会社は、もともとIBMでコンサルティング業務にあたっていた私、河上が代表を務めるコンサルティング会社です。新規事業、企画、デザイン思考、DXの専門家であり、人を育てる専門家でもあります。
河上泰之の経歴、実績 |
<経歴> 慶応義塾大学大学院SDM研究科を優秀賞で修了。デザイン思考を強みとし、これまでにIBMやデロイトにて多数のコンサルティング案件を経験。2019年に独立した後、現在は課題解決のプロフェッショナル人材として、企業、省庁、地方自治体などを対象に、新規事業開発やDX推進を中心に、顧客の課題解決を支援している。 <主な実績> |
直近のメンタリング事例としては、以下のようなものがあります。
大手人材派遣会社の商品企画と営業企画の次世代の幹部候補に対するメンタリングを実施。課長クラスから部長クラスを、1年間で9名の育成に成功した。1名あたりのコストは年間200万円でした。 クライアントである大手採用支援系の会社からは、企画職を1人採用するためにかかるコストは1人あたり1,600万円だと算出しています。中途採用の支援をしている本人たちが計算しているので、大きく外れた金額ではないはずです。 つまり中途採用すると1600万円かかるが、Beth社に依頼すれば200万円で1名育つのなら、企画者1名あたり1400万円のコストカットができる。そのように判断をいただき、支援を継続しています。 |
自社でメンタリングが難しいと感じた場合、外部に依頼した方が良さそうだと感じた場合は、お気軽にご相談ください。
5.まとめ
本記事では、メンターの役割について詳しくお伝えしました。
メンターの役割は、他者に業務を完了させるために、他者を成長させることです。
メンターは育成という手段を使って、部下や同僚などが行う何かの仕事を完了させるという目的を達成させます。
メンターは、本人を大きく成長させるほどに学びが必要で、とても難しいです。繰り返しになりますが、社内の素人にメンターを任せて、若手を潰したり離職させたりするくらいなら、専門家を雇うのも1つの手段です。検討のご相談も含め、メンターに関するご相談は、以下からお気軽にどうぞ。