「DX推進指標とは一体どんなものなの?」
「DXの推進指標を使って、自社のDXの進捗程度を診断したい。」
このようにお考えではありませんか?
自社のDXがどのくらい進んでいるのか、正しく進んでいるのか、指標があるなら使って自己診断したいですよね。
DX推進指標とは、経済産業省が2019年にガイダンスとともに発表したツールで、DXを推進しやすくすることを目的に作られました。
出典:経済産業省 DX推進指標とガイダンス「DX推進指標の構成」
経営者や社内の関係者がDXの推進に向けた現状や課題に対する認識を共有し、アクションにつなげるための気付きの機会を提供する。それがDX推進指標です。
DX推進指標を活用する場合は、経済産業省の外輪団体であるIPAの「DX推進指標 自己診断フォーマット」を活用して35項目の質問に回答し、評価することになります。
ただし、DX推進指標は、必ず使わなければいけないというわけではありません。とにかく利益が出ればいいという企業は、推進指標を使わずに、会社を管理する昔ながらの方法(管理会計と呼ばれる領域)を使っても大丈夫です。つまり、DX推進指標は、使っても使わなくてもどちらでも構いません。
今回は、経済産業省の推進指標を使いたい人、興味がある人に向けて、経済産業省が発表しているDX推進指標について詳しくお伝えします。
この記事でわかること |
・DX推進指標とは ・DX推進指標を構成する35項目 ・経営者はこの推進指標に対してどのように向き合えば良いのか ・DX推進指標を活用して自己診断する方法3STEP ・あくまで競争優位を確立することがDXの目的 |
本記事を読めば、DX推進指標とはどのようなものか、どのような診断項目があるかについて詳しくわかるとともに、実際に診断する際の流れをイメージできます。記事の最後では、DX推進指標を活用する際の注意点もお伝えしているので、ぜひ最後まで読み進めてください。
1.DX推進指標とは
DX推進指標を正しく活用するために、経済産業省がDX推進指標を策定した狙いや、正しい活用方法について把握しておくといいでしょう。
この章では、
・DX推進指標とは
・DX推進指標をどのように活用するべきなのか
について、わかりやすくお伝えしていきます。
1-1.DX推進指標とはDXを推進しやすくするための指標
DX推進指標は、経営幹部、事業部門、DX部門、IT部門などの関係者が、
・現状
・課題
・これから取るべきアクション
についての認識を共有し、気付きの機会を提供するために策定されたツールです。
経済産業省がDX推進指標を策定した背景には、現在多くの企業が抱える以下のような課題があります。
・どんな価値を創出するかではなく、「AIを使ってないかできないか」という発想になりがち
・将来に対する危機感が共有されておらず、変革に対する関係者の理解が得られない
・号令はかかるが、DXを実現するための経営としての仕組みの構築が伴っていない
DX推進指標は、多くの日本企業が直面しているDXをめぐる課題を指標項目としています。そのため、解答に向けて議論することで、
・DXで何を実現したいのか
・自社の現状と課題
・自社がこれから取るべきアクション
に気づくことができます。
企業内のベクトルを合わせてアクションに繋げていくことを後押ししてくれるのが、DX推進指標です。
1-2.DX推進指標の正しい使い方
DX推進指標は、
・自己診断ツール
・経営層以下関係者がDXを推進するにあたっての課題に気づく機会
として活用するのが、正しいか活用方法です。
具体的には、
・社内で認識を共有する
・DX推進に向けて実際のアクションに繋げる
・進捗を把握する
の3つの活用方法を想定しています。
ここでは、上記3つの活用方法について、詳しくお伝えします。
1-2-1.社内で認識を共有する
DX推進指標の回答は、社内で議論して答えを出し評価する形になっているので、必然的に認識を共有できます。
認識の共有を図り、今後の方向性の議論を活性化させることで、「DXのための経営の仕組み」と「その基盤としてのITシステムの構築」について、現状どうなっているのか?課題はなんなのか?今後どのようなアクションを取るべきなのか?について、理解が深まります。
ここで注意しなければいけないのが、一方通行の回答方法では議論が生まれず、DX推進指標を使う意味がないということです。
・担当者1人が回答する
・各部署の評価結果を確認して経営幹部がレビューする
といった回答方法では、十分な認識の共有ができないので、注意しましょう。
1-2-2.DX推進に向けて実際のアクションに繋げる
DX推進指標の回答内容について議論する際は、各項目に点数をつけるだけではなく、これから取るべきアクションについて議論することが重要です。
自社の現状や課題の認識を、経営幹部、事業部門、DX部門、IT部門などのDX関係者の間で共有した上で、あるべき姿を目指すために取るべきアクションはなんなのかについて話し合い、実際のアクションに繋げましょう。
1-2-3.進捗を把握する
継続的にDX推進指標を自己診断することで、自社のDXの進捗を管理しましょう。
一度診断を行っただけでは、持続的なDX推進にはつながらないからです。
例えば、数年連続して診断を行うことで、アクションの達成度合いを継続的に評価できます。そうすることで、経年とともにどのように変化しているかを把握することができ、自社のDXの進捗具合を管理することが可能になります。
なお、DX推進指標ガイダンスによると、年次ではなく、より短期のサイクルで確認するべき指標やアクションは、自社のマネジメントサイクルに組み込んで管理することが重要です。覚えておきましょう。
2.DX推進指標を構成する35項目
ここからは、DX推進指標を構成する35項目の具体的な内容について見ていきましょう。
全体像は、以下の通りです。
出典:経済産業省 DX推進指標とガイダンス「DX推進指標の構成」
ここでは、実際に出題される質問と出題の意図、回答のポイントなどについてお伝えするので、回答に向けて議論するイメージが沸きやすくなります。ぜひ読み進めてください。
2-1.ビジョン
ビジョンの項目では、以下の質問に回答します。
回答はレベル0〜レベル5まである成熟レベルの中から、当てはまるかものを選んで回答します。
この質問は、多くの企業が抱える課題を問題提起するために出題されています。
DXでは、業務改善や効率化のみにとどまらず、「顧客視点で新たなビジネス価値を創り出す」ことを目指していますが、現在「AIを使ってやれ」という手段にのみ着目している企業が多いことから、このような質問が出されました。
2-2.危機感とビジョン実現の必要性の共有
危機感とビジョン実現の必要性の共有の項目では、以下のような項目に回答します。
この質問は、DXを進める上で重要な
・なぜDXをするのか
・変革しないとどのような未来が待っているのか
という事項について、経営層や現場が具体的かつリアリティがある危機感を持っているかを確認するために設定されています。
回答方法は、レベル0〜レベル5のどの成熟レベルに当てはまるかを回答します。共有していないを0として、どの程度共有ができているかで段階的にレベルが分かれています。
2-3.経営トップのコミットメント
経営トップのコミットメントでは、以下の質問が出題されます。
<経営トップのコミットメント> 日上の実現に向けて、ビジネスモデルや業務プロセス、企業文化を変革するために、組織整備、人材・予算の分配、プロジェクト管理や人事評価の見直し等が、経営リーダーシップの下、明確化され、実践されているか。 |
この質問の趣旨は、「DXは社内外に号令をかけるだけでは経営トップはコミットメントを示したことにはならない」ということを再確認するために設定されています。
DXを推進して
・ビジネスモデル
・業務プロセス
・企業文化
を変えていくためには、変革を実行して根付かせるための「仕組み」を明確化して、持続的に定着させる必要があります。
そのため、この項目では「仕組みができていない」をレベル0として、どの程度仕組みができていて、どの程度実践しているか、定着しているか、当てはまるレベルを回答します。
2-4.マインドセット、企業文化
マインドセット、企業文化の項目では、以下の質問が用意されています。
ここで問われている仕組みとは、以下のような仕組みのことを指しています。
1.「仮説設定→実行→検証→仮説修正」を繰り返しながら
2.「優先順位」→「予算割り振り」のサイクルを迅速に変化させるために
3.「プロセス」「プロジェクト管理」「評価」の整備して確立しているかどうか
DXを推進する上で、挑戦すること、失敗から学ぶことは重要なことです。そのため、上記のような仕組みができているか、できている場合はどのくらいのレベルまでできているかを確認するための質問になっています。
2-5.体制
この項目では、以下の質問に回答します。
ここでいう「適した体制」とは、例えば、小さなプロジェクトを動かして、なおかついつでも方向転換できる体制のことを指します。
挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行するためには、決裁ルートが何階層もある組織ではなく、権限を伴った体制で横断的に実践できる仕組みを構築することが重要ということを再確認できる質問です。
回答では、「構築できていない」をレベル0として、6段階で評価します。
2-6.KPI
この項目では、以下の質問が出題されます。
<KPI> 挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行し、継続するのに適したKPIを設定できているか。(視点:進捗をタイムリーに測る、小さく動かす、Exitプランを持つなど) |
DXでは、従来の発想とは異なるKPIを設定することも必要です。この点について、どの程度理解できているかを図る質問です。
回答する際は、設定されていないを最低レベルとし、設定されている、実践されているなどを6段階で評価します。
2-7.評価
この項目では、以下の質問に回答します。
DXはすぐに結果が出るものではありません。しかし、DXに関わっている人材は、関わる以前よりも大変な思いをしていることが多く、それを評価されないと不満に繋がります。
この質問は、
・DXに関わっている人の評価を正しくするために、KPIを活用しましょう
・売上による評価ではなく、チャレンジしたことをプラス査定する仕組みを作りましょう
ということへの理解を意図しています。
2-8.投資意思決定、予算配分
この項目では、以下の質問が出題されます。
「投資や予算配分の仕組みは、挑戦と失敗から学ぶことを推奨するためのKPIに基づいている必要がある」という考えに基づいて出題された質問です。
構築できていないに該当するレベル0から、構築の程度に合わせて最高をレベル6とし、回答します。
2-9.推進・サポート体制
この項目では、以下の質問がされます。
DXの推進では、DXに関係する部署は企業によって様々ですが、事業部門やIT部門は必ず関わることになります。この2部門を巻き込むために、
・役割を明確にする
・必要な権限を与える
・必要な人材、人員を充てる
ことが重要になります。
この質問では、以上のようなことができているか、どの程度できているかを問うています。
2-10.推進体制
この項目の質問は、以下の通りです。
DXの推進では、全社的な活動として、各部門を巻き込んだ協力体制を構築できるかが重要で、この質問の意図は、この点についてどの程度認識しているか、できているかの確認です。
DXでは、経営層の意志・判断が重要なので、社長直轄でDX推進の部署を設置することが望ましいのですが、それだけでは不十分なので、体制ができているか、どの程度できているかについて議論し、回答します。
2-11.外部との連携
この項目では、以下の質問に回答します。
DXを推進する上で、足りないスキルは外部との連携で補うことが重要です。具体的には、高度なデジタル技術を有するITベンダーと連携するなどがそれに当たります。
外部と連携すること、さらにその活動や成果を評価する仕組みの構築、持続的な定着ができているほど、評価が高くなります。
2-12.人材育成・確保
この項目の質問は、以下の通りです。
DXを推進する上で、DXの実行を担う人材の育成と確保が大きな課題であるという点からの質問です。
優秀な人材を育成・獲得するためには、新たな人事評価制度を構築することも時には重要になります。
ここでの回答は、行われていないをレベル0とし、グローバル競争を勝ち抜くことができるレベルが最高レベルの6となります。
2-13.事業部門における人材
ここでの質問は、以下の通りです。
<事業部門における人材> 事業部門において、顧客や市場、業務内容に精通しつつ、デジタルで何ができるかを理解し、DXの事項を担う人材の育成・確保に向けた取り組みが行われているか。 |
この質問では、どの程度取り組みが行われているか、評価してください。
この質問は、DXの推進のためには、事業部門に置いて事業ニーズを把握している人材が、
・データやデジタル技術を活用して顧客視点でどのような価値を生み出せるかアイデアを出す
・その実証性を検証できるようになる
ことが重要であることから出題されています。
2-14.技術を支える人材
この項目では、以下のことについて質問されます。
<技術を支える人材> デジタル技術やデータ活用に精通した人材の育成・確保に向けた取り組みが行われているか。 |
DXの推進では、
・デジタル技術やデータの活用について、手法の選択を適切に行える人材
・それを活用できる人材
を確保することが重要であることから、この質問がされています。
2-15人材の融合
この項目の質問は、以下の通りです。
<人材の融合>「技術に精通した人材」と「業務に精通した人材」が融合してDXに取り組む仕組みが整えられているか。 |
この質問では、仕組みができているか、どの程度できているかについて回答します。
「DXで何をやるか」この答えを出すためには、「技術に精通した人材」と「業務に精通した人材」が連携できる仕組みや体制を構築することが不可欠なため、この質問が出題されています。
2-16.事業への落とし込み
この項目では、以下のことについて質問されます。
<事業への落とし込み> DXに通じた顧客視点での価値創出に向け、ビジネスモデルや業務プロセス、企業文化の改革に対して、(現場の抵抗を抑えつつ、)経営者自らがリーダーシップを発揮して取り組んでいるか。 |
DXの推進では、経営者が自ら改革の必要性を現場に十分に説明することが重要です。そうすることで、改革を実行する現場の抵抗感や不満を少なくできます。また、経営トップとして何を重視しているかを事業レベルで浸透させることができます。
この点について理解し実践できているかを問うているのがこの質問です。
2-17.戦略とロードマップ
この項目の質問は、以下の通りです。
<戦略とロードマップ>ビジネスモデルや業務プロセス、働き方等をどのように変革するか、戦略とロードマップが明確になっているか。 |
DX推進に伴う変革を事業レベルで具体化する際には、現場レベルの戦略やロードマップとして具体化させていることが重要であることから、この質問がされています。
2-18.バリューチェーンワイド
この項目の質問は、以下の通りです。
<バリューチェーンワイド> ビジネスモデルの創出、業務プロセスの改革への取組が、部門別の部分最適ではなく、社内外のサプライチェーンやエコシステムを通したバリューチェーンワイドで行われ ているか。 |
サプライチェーンとは、原材料や部品の供給網のことです。エコシステムとは、企業間のビジネス連携により共存していくシステムのことです。バリューチェーンワイドとは、バリューチェーン全体のことを指します。
DXを推進する際は、バリューチェーン全体を見渡した上で、顧客視点での新たな価値を創出することが重要です。
取り組みの程度を評価して回答しましょう。
2-19.持続力
この項目の質問は、以下の通りです。
<持続力> 改革の途上で、一定期間、成果が出なかったり、既存の行うとのカニバリが発生することに対して、経営トップが持続的に改革をリードしているかどうか。 |
カニバリとは、共食いの意味です。自社製品が自社の別の製品と売上を食い合うことを指します。
経営トップが持続的に改革をリードするとは、経営トップが自ら「生き残るために必要である」ことを十分に説明することを指します。
うまくリードできなかった場合、例えば、組織を立ち上げたが組織のゴールが見えず、既存事業部からの反発が大きくて潰される、といったことがおきることが考えられます。
このようなことを防ぐために、ここでは経営トップがリーダーシップを発揮しているかについて議論し、回答します。
2-20.ビジョン実現の基盤としてのITシステムの構築
この項目の質問は、以下の通りです
<ビジョン実現の基盤としてのITシステムの構築> ビジョン実現(価値の創出)のためには、既存の IT システムにどのような見直しが必要であるかを認識し、対応策が講じられているか。 |
DX推進の基盤として、ITシステムに求められることは、以下の3つです。
・データをリアルタイム等使いたい形で使えるかどうか
・変化に迅速に対応できるデリバリースピードを実現できるか
・データを、部門を超えて全社最適で活用できるか
特に経営者は、ITシステムについて「やっておいてね」と丸投げするのではなく、上記を理解した上で、「システムが刷新されたらどのような価値を生み出せるのか」について、認識することが重要です。
ここでは、認識しているか、どの程度認識しているかについて回答します。
2-21.データ活用
この項目も、ITシステム構築の枠組みに関する質問です。
<データ活用> データを、リアルタイム等で使いたい形で使えるITシステムとなっているか。 |
この質問に対しては、
・どんなデータを持っているか
・経営を継続する(=キャッシュフロー確保の)ために、リアルタイムで使いたいデータは何か
・それが使えているか
について議論し、回答しましょう。
2-22.スピード・アジリティ
この項目も、ITシステム構築の枠組みに関する質問です。
<スピード・アジリティ> 環境の変化に迅速に対応し、求められるデリバリースピードに対応できるITシステムとなっているか。 |
アジリティとは、機敏性のことです。
DXの実現では、環境の変化に迅速に対応できるようなデリバリーが可能になっているかがとても重要なので、このような質問が設置されています。
回答は、「環境変化に迅速に対応できず、検討も始めていない」が最低評価のレベル0です。
2-23.全社最適
この項目も、ITシステム構築の枠組みに関する質問です。
<全社最適> 部門を超えてデータを活用し、バリューチェーンワイドで顧客視点での価値創出ができるよう、システム間を連携させるなどにより、全社最適を踏まえた IT システムとなっ ているか。 |
この質問では、
・部門を超えてデータ活用が可能か
・全社的にシステム間連携が可能か
について検討し、回答します。
DXの推進では、システムの標準化・共通化や、社内API等の活用により、データ活用を全社的に進めることが重要です。
2-24.IT資産の分析・評価
この項目も、ITシステム構築の枠組みに関する質問です。
<IT資産の分析・評価> 部門を超えてデータを活用し、バリューチェーンワイドで顧客視点での価値創出ができるよう、システム間を連携させるなどにより、全社最適を踏まえた IT システムとなっ ているか。 |
IT資産の分析と評価に関しては、そもそも自社のIT資産の全体像を把握していないケースが多いことが課題としてあげられます。
・自社のIT資産を把握できているか
について議論するところからはじめてください。
議論では、どのようなレベルまで管理ができ、分析・評価しているかについて、エビデンスから確認できることが重要になります。
その上で、把握・分析・評価それぞれの状況がどうなっているのか、回答してください。
2-25.廃棄
この項目も、ITシステム構築の枠組みに関する質問です。
<廃棄> 価値創出への貢献の少ないもの、利用されていないものいついて、廃棄できているか。 |
廃棄できているかどうか。できている場合は、部門ごとなのか、全社的なのか、実行が持続しているのか、について回答します。
2-26.競争領域の特定
この項目も、ITシステム構築の枠組みに関する質問です。
<競争領域の特定> データやデジタル技術を活用し、変化に迅速に対応すべき領域を精査の上特定し、それに適したシステム環境を構築できているか。 |
DXの推進では、ビジョンにおける強みが競争領域の定義と紐づいていることが重要なので、その点について確認してください。
回答は、どの程度特定できているかについて回答します。
2-27.非競争領域の標準化・共通化
この項目も、ITシステム構築の枠組みに関する質問です。
<非競争領域の標準化・共通化> 非競争領域について、標準パッケージや業種ごとの共通プラットフォームを利用し、カスタマイズをやめて標準化したシステムに業務を合わせるなど、トップダウンで機能圧縮できているか。 |
非競争領域とは、ビジョン実現のために他社と差別化するべき点を除いた領域のことを指します。
非競争領域にかけるコストを削減することが重要であることから、この質問が設定されています。
2-28.ロードマップ
この項目も、ITシステム構築の枠組みに関する質問です。
<ロードマップ> ITシステムの刷新に向けたロードマップが策定できているか。 |
ロードマップをDX推進の戦略に沿った形で策定することで、推進に不要なシステムが残存しないようにします。
ITシステムの刷新に向けた議論がされているかどうか、ロードマップの策定状況はどのようになっているか、について回答します。
2-29.ガバナンス・体制
この項目では、以下の質問に回答します。
<ガバナンス・体制> ビジョンの実現に向けて、IT 投資において、技術的負債を低減しつつ、価値の創出につ ながる領域へ資金・人材を重点配分できているか。 |
「技術的負債」とは、 短期的な観点でシステムを開発し、結果として、長期的に保守費や運用 費が高騰している状態のことです。
DXを推進するために、
・価値創出に向けた投資の必要性への理解
・何を削減してそのための資金や人材を生み出すのかという発想
が必要で、質問ではこのことについて問うています。
回答では、できているか、できていないか。どの程度できているか。について評価してください。
2-30体制
この項目では、以下の点について質問しています。
<体制> ビジョンの実現に向けて、新規に投資すべきもの、削減すべきもの、標準化や共通化等について、全社最適の視点から、部門を超えて横断的に判断・決定できる体制を整えら れているか。(視点: 顧客視点となっているか、サイロ化していないか、ベンダーとのパートナーシッ プ等) |
何を削減して資金や人材を生み出すのかについて検討する際は、コストを使う部門と生み出す部門が異なるため、部門を超えた判断が必要です。この質問では、横断的に全体最適に向けたガバナンス効いた体制が整えられているかについて、議論してください。
体制ができているか、どの程度のレベルで判断・決定できる体制になっているのかについて、回答しましょう。
2-31.人材確保
この項目では、以下のことについての質問があります。
<人材確保> ベンダーに丸投げせず、IT システムの全体設計、システム連携基盤の企画や要求定義を自ら行い、パートナーとして協創できるベンダーを選別できる人材を確保できてい るか。 |
DXを推進する際は、
・自社でやるべきことは何か判断できる
・ベンダーに依頼するべきことは何か判断できる
・ベンダーの目利きができる
上記のような人材の確保が必要です。
ベンダーを選ぶ際は、請負業者としてではなく、事業パートナーとして協力できる相手かどうか、この点がポイントとなります。
このような人材を確保できているか?ベンダーに丸投げになっていないか?などについて議論しましょう。
そもそもシステムを作るとはどういうことなのかがわからない場合や、「システムズエンジニアリング」「Vモデル」といった言葉がわからない場合は、独立行政法人情報処理推進機構IPAの「システムズエンジニアリングの推進」をご一読ください。
特に「経営者のためのシステムズエンジニアリング導入の薦め」と、「開発者のためのシステムズエンジニアリング導入の薦め」は必読です。
システムの作り方がわかれば、作業分担として何を誰が行うのということが議論しやすくなります。
2-32.事業部門のオーナーシップ
この項目では、以下の質問が用意されています。
<事業部門のオーナーシップ> 各事業部門がオーナーシップをもって、DX で実現したい事業企画・業務企画を自 ら明確にし、完成責任まで負えているか。 |
事業部門のオーナーシップが欠如すると、満足できるITシステムができあがらず、大幅な手戻りが発生し、その結果コストが増えることに繋がります。
事業部門がオーナーシップを持っているか、どこまで責任を負えているかについて評価しまし、回答しましょう。
2-33.データ活用の人材連携
この項目では、以下の点について質問されます。
<データ活用の人材連携> 各事業部門がオーナーシップをもって、DX で実現したい事業企画・業務企画を自 ら明確にし、完成責任まで負えているか。 |
とてもシンプルな質問です。現状について確認し、回答してください。
2-34.プライバシー、セキュリティー
この項目では、以下のことについて質問があります。
<プライバシー、セキュリティー> DX推進に向け、データを活用した事業展開を支えるきばん(プライバシー、データセキュリティー等に関するルールやITシステム)が全社的な視点で整備されているか。 |
この質問も、とてもシンプルな内容です。基盤が整備されているか、されている場合はどのような体制で整備されているかについて回答してください。
2-35.IT投資の評価
最後の項目です。この項目では、以下の点について質問されます。
<IT投資の評価> IT システムができたかどうかではなく、ビジネスがうまくいったかどうかで評価する仕組みとなっているか。 |
DXでは、ITシステムなどの手段を使うこと、導入することが目的ではないことについての認識を問う、DXの本質的な質問です。
現在、多くの企業で見られるのが、ITシステム構築への投資と売上や利益等のビジネス価値が直接紐付いていないケースです。
とても重要な項目なので、しっかり議論を深めてください。
3.経営者はこの推進指標に対してどのように向き合えば良いのか
「DX推進指標って、どの会社も使わないといけないの?」
「DX推進指標で自己判断すると、自社のDX推進が加速するの?」
このような疑問をお持ちではありませんか?
DX推進指標は、DXを進める全ての会社が必ず使わなければいけないものではありません。
そもそも、DX推進指標を使用する際は、
・あなたの会社にとって本当にDXが必要なのか
・DXが必要な場合、どのような時にDX推進指標を使うべきか
・DXを推進する上で必要なこととは何か
について考えることが重要です。この章では、この3つのことについてお伝えしていきます。
3-1.自社にとってDXが本当に必要か、改めて考える
社会的になんとなく求められている「DX」という単語に反応していませんか?
DXを推進すること、その過程でDX推進指標で自己診断することはもちろん重要ですが、それ以前に、
「会社にとってDXが本当に必要なのか?」
この点について考える必要があります。
そもそも、なぜ会社が変わらないといけないのか?目的はなんなのか?について経営者が自問自答するような、準備運動から始めることがDX推進では求められます。
3-2.【前提】この指標を使っても使わなくても問題ない
まず前提としてDX推進指標は、DXを推進する上で必ず使わなければいけないものではありません。
DX推進指標を使わなくても、利益率やキャッシュフローに着目して、会社を管理する昔ながらの管理方法(管理会計と呼ばれる領域)で判断する方法もあります。
DX推進指標を使う場合は、
・誰かに説明するため
・定量的に図りたい
このような目的があるのなら、意味があるかもしれません。
銀行や投資家に「あなたの会社はどうなの?DXやっているの?」と聞かれた時に、「DX推進指標で○点です。」と言うことができます。
しかし、生き残ることが目的とすると、果たしてこの点数付けに何の意味があるのか、疑問を感じます。
例えば、
<危機感とビジョン実現の必要性の共有> 将来におけるディスラプションに対する危機感と、なぜビジョンの実現が必要かについて、社内外で共有できているか。 |
のように、いかようにも最大の点数を付けやすい質問も、中にはあります。
また、DX推進指標の自己診断は、真剣に取り組もうと思うと、人員も時間もかかりまが、そんな余裕がある会社ばかりではないのが現実なので、余力が十分にある会社は利用すればいいのではないでしょうか、と言わざるを得ません。
ただし、推進指標の点数が上がると褒められるから、点数が上がるために何をやればいいかを考えがちになるので、その点は注意が必要です。それではこの指標を使う意味がありません。
DX推進指標を活用する際は、そもそもDX推進指標が本当に正しいか、自分で考えて使うことが重要です。まるまるこの指標を使えばいいのではなくて、必要な項目を選んで活用するなど、真剣に考えながら活用することをおすすめします。重要な項目については、次の章でお伝えしていきます。
経営者の方で、DXの正しい準備運動ややり方について、もっと詳しく知りたい方は下記の記事もご覧ください。
DXの成功のために経営者がするべきこと|必要なのは創業し直す覚悟
3-3.DXを推進する上で何よりも重要なことを把握しよう
DX推進指標の35項目の中でも、「そもそもうちの組織は何をするのか?」「本当に危機的状況なのか?」といった項目に当たる
・ビジョンの共有
・危機感とビジョン実現の必要性の共有
・経営トップのコミットメント
の項目が重要です。
その次に、「その集団が他と比べて生き残るためのやり方」に当たる
・戦略とロードマップ
その次に、「戦略を進めるための」
・体制
と続きます。
しかし、これらの項目については、実際のDX推進指標の分析結果から、真剣に取り組んでいない企業が多い現状がことが読み取れます。
以下は、2022年度版の速報版分析結果です。
<分析結果 2022年の全企業の傾向>
出典:IPA「DX推進指標自己診断結果分析レポート(2022年度版)速報版」
分析結果を見ると、一見、比較的悪くないと言えば悪くないのですが、「そもそもうちの組織は何をするのか?」「本当に危機的状況なのか?」といったDXの根本的な項目に当たる
・ビジョンの共有
・危機感とビジョン実現の必要性の共有
・経営トップのコミットメント
・戦略とロードマップ
・体制
の数値が、あまりに低くなっていることが問題です。経営者に関係する指標が低い企業は、控えめに言って「非常に問題があり」と言わざるを得ないでしょう。
対して、平均値上位5指標は、
・外部との連携
・事業への落とし込み
・ビジョン実現の基盤としてのITシステムの構築
・データ活用の人材連携
・プライバシー、データセキュリティ
となっていますが、このことが何を示しているか、わかりますか?
この結果は、「外部の企業に助けてもらって、うちの会社の社員が理解できるような何かをITとして作って、なんかやれば儲かるだろう」というような、DXの目的を理解していないのではない?と感じざるを得ない姿を映し出しています。
プライバシーとかデータセキュリティーが上位にくるのも、要するに何か変わっていこうっていうことではなくて、守ろうという姿勢が極めて強いというように見えます。そしてこういう研修は腐るほどあるので、安いのを買えばいいよね、と予算もそんなに掛からずやった感が出ます。
ビジョン、経営トップのコミットメント、戦略、体制、全てに真剣に取り組んだ例に、寺田倉庫株式会社があります。創業家以外の人材を迎え、B2BからB2C、つまり法人から個人に対象を変え、同時に荷物の管理方法をアプリを使った方法に切り替えて、新規事業を始めました。
DX推進指標のガイダンスでも示されていますが、トップがやると言わなければ、当然みんな目の前の利益を追いかけます。しかしそれではダメで、目の前の売上ではなくて、新しく変わっていく方向をみんなで向かわなければいけません。
しかし、それができていない企業が多いのが現状です。
DX推進指標で評価をつけることもいいですが、
「会社にとって本当にDXは必要なのか?」「会社は本当に変わるべきなのか?変わる必要があるのか?」
経営者としては
「この組織は本当に必要なのか?」「世の中に価値を出していく仕組みとして必要か?」
と言う点について考えることが、評価以前に一番大事だと言うことを忘れないでください。
4.DX推進指標を活用して自己診断をする方法3STEP
DX推進指標を活用して自己診断する際は、以下の3STEPで行います。
DX推進指標を活用して自己診断をする方法3STEP |
STEP1.DX推進指標自己診断フォーマットver2.3をダウンロードする STEP2.自己診断フォーマットに記入する STEP3.自己診断フォーマットを提出する |
事前に流れを把握することで、実際に自己診断する際にスムーズに作業が進みます。
4-1.STEP1.DX推進指標自己診断フォーマットver2.3をダウンロードする
はじめに「DX推進指標自己診断フォーマットver2.3 (Excelファイル)」をダウンロードします。
IPA公式ホームページ内の、「DX推進指標のご案内」からダウンロード可能です。
フォーマットはExcelファイルですが、Numbersなどのソフトが入っているパソコンがあれば開くことができるので、Macユーザーの方も安心してください。
中には、今回が初めての回答ではない企業や、以前ダウンロードしたことがある企業もあるかもしれませんが、現在提出できるのは「DX推進指標自己診断フォーマットver2.3 」のみです。確認の上、使用してください。
4-2.STEP2.自己診断フォーマットに記入する
社内のDX関係者が集まって、自己診断フォーマットに記入する内容を検討します。
検討する内容には、以下のようなものがあります。
・現状とその根拠
・目標達成のために必要なアクション
「2.DX推進指標を構成する35項目」を参考に、自己診断フォーマットを埋めることができるよう議論して内容を検討し、記入してください。
4-3.STEP3.自己診断フォーマットを提出する
全項目の回答が終わったら、自己診断フォーマットを提出します。
フォーマットの提出には、DX推進ポータルへの登録が必要です。DX推進ポータルサイトにアクセスし、登録がまだの場合は新規登録をしてください。
登録後はポータルサイトにログインして、以下の通りに手続きを進めます。
1.「各制度の申請・届出」をクリックする
2.「DX推進指標の手続き」をクリックする
3.「DX推進指標の提出」をクリックする
4.提出するファイルをアップロードする
5.連絡事項を記入する6.提出ボタンをクリックすると提出が完了する
以上でDX推進指標の提出は完了です。
提出が完了すると、受付番号が表示されます。また、登録したメールにも受付番号が配信されるので、確認しましょう。
5.あくまで競争優位を確立することがDXの目的
DX推進指標を使う上で注意したいのが、
DX推進指標を管理することが仕事ではなく、会社が利益を上げられるようになること、そして生き残ることが目的なので、そこは履き違えないでください
ということです。
この指標を作った経済産業省が言っているDXの定義、
「競争優位性を確立することを目的に、デジタルを使おう。」
あくまでも、前半部分の競争優位性を確立することが目的なのであって、デジタルを使うことも、この指標を管理することも目的ではありません。
絶対に間違えないでください。
冒頭でもお伝えしたとおり、このDX推進指標の35項目を活用しても良いですし、従来どおりの会計指標で管理しても大丈夫です。
繰り返しになりますが、指標の管理を仕事だとは思わないでください。
6.まとめ
本記事では、DX推進指標とはどのようなものか、DX推進指標の35項目の内容、DX推進指標への向き合い方、DX推進指標の活用方法と注意点についてお伝えしました。
DX推進指標は、あくまでもDXの目的を達成しやすくするために経済産業省が用意したツールにすぎません。
この指標のフォーマットに入力することに膨大な時間を取られたり、それがメインの仕事になるようなことがないようにしてください。
貴社のDX推進がうまく進むことを願っています。