「これから新規事業を立ち上げる予定だ。失敗する理由を知っておきたい」
あなたは、大企業で新規事業のローンチを予定しているのですね。
初めてのチャレンジということもあり、失敗を回避したいのかもしれませんね。
新規事業に失敗する要因はさまざまあります。
なかでも、大企業が新規事業に失敗する大きな理由は、大きく分けて5つあります。
大企業が新規事業に失敗する理由5つ
- ニーズはあるが、実現方法がNG
- そもそも、ニーズがない
- 歴史のあるちゃんとした会社である
- 新規事業をコア業務と兼任させている
- 「自前主義」を徹底しすぎる
これらの項目について、一つでも当てはまる場合、新規事業の失敗確率が高まり泥沼化するため、注意が必要です。
そこで、本記事では、上記5つの失敗理由について解説するともに「失敗を回避する方法」や「大企業における新規事業の成功事例・失敗事例」などについても、詳しく解説いたします。
本記事を読めば、新規事業で失敗する確率を減らすことができます。
「新規事業で失敗したくない」
「新規事業を成功させて、会社の売上UPに貢献したい」
といった思いのある方にとって、参考になる記事です。
それでは早速、ご覧ください。
1. 大企業が新規事業に失敗する理由5つ
冒頭でご説明した通り、大企業が新規事業で失敗する理由は、大きく分けて5つあります。
大企業が新規事業に失敗する理由5つ
- ニーズはあるが、実現方法がNG
- そもそも、ニーズがない
- 歴史のあるちゃんとした会社である
- 新規事業をコア業務と兼任させている
- 「自前主義」を徹底しすぎる
一つずつ、解説していきましょう。
1-1.ニーズはあるが、実現方法がNG
1つ目に挙げられるのが「ニーズはあるが、実現方法がNG」という点です。
大企業が新規事業をローンチさせる場合、数千万~数百億円単位の開発費をかけて、多くのユーザーが見込める商品・サービスを開発して、売上アップを狙うことが多いです。
この投資金額の妥当性の説明を求められて、困って「世の中にニーズが確実にあるもの」を変に改造しようとします。ニーズが確実にあるものとは、すでに問題解決にお金が払われているもの、つまり既存の製品やサービスが存在するものです。
問題を解くために消費者、個人だろうと法人だろうと同じ、は製品やサービスを購入します。ただし、それは問題が解けるのならどんな方法や手段でも良いというわけではなく、解き方も重要な要素となります。
そのため、ニーズがあることが明らかでも、売れずに撤退があります。
●大企業の新規事業の失敗事例①:Googleグラス(Google)
Googleグラスは、AR(Augmented Reality:拡張現実)機能を搭載したメガネ型のウェアラブル端末です。
主な機能は、以下の通りです。
- インターネットで検索した情報がメガネに表示できる
- 見えている光景をカメラのように撮影できる
- 見ている光景を遠隔地にいる人たちに共有できる
- バーコードをスキャンして情報を表示できる
「業務効率化」等に役立つ機能が満載ですが、いずれも、スマホでいい=機能への欲求は世の中に確かに存在するが、物理的な実現方法はメガネ型はNGということが、市場参入に失敗した大きな理由の一つです。
「Googleグラス」の機能比較 | |
Googleグラスの機能 | 左記の機能を代替できる商品・サービス |
インターネットで検索した情報をメガネに表示 | スマホのインターネット検索機能 |
見えている光景をカメラのように撮影 | スマホのカメラ機能 |
見ている光景を遠隔地にいる人たちに共有 | ライブカメラ |
バーコードをスキャンして情報を表示 | スマホのバーコードスキャン機能 |
そのほか、
- スマホよりも「直感的に使える」ことに対するニーズが薄い
- 数十万円支払う価値がない
- 運転・歩行時の事故リスクがある
- デザインが悪い
- 写真・動画撮影していることが外部からわからないことによる「プライバシー侵害のリスク」がある
等の理由も重なり、2015年には、一般販売が中止されました。
この事例のように、既に世の中にあるもので「代替可能」「実現方法でNG」な場合、大失敗に終わってしまう可能性が高いです。是非、覚えておきましょう。
1-2.そもそも、ニーズがない
2つ目に挙げられるのが「ニーズがない」という点です。
ターゲットにとって「不必要な商品・サービス」であれば、成功する確率は低くなってしまうのです。
大企業で新規事業をローンチする際には、是非とも気を付けたいポイントです。
事例をもとに、詳しくご説明しましょう。
以下の写真のような、赤ちゃん用のモービル(吊り下げのおもちゃ)の場合。
モビールを製造した会社は「動物のかわいらしい人形を釣り下げれば、赤ちゃんは喜ぶだろう」と考えて商品を開発します。
しかし、赤ちゃんからみると「動物のお尻が揺れている不思議なおもちゃ」に映ります。赤ちゃんが心から満足する商品にはなりにくいです。
この事例のように、提供者側がよかれと思う商品価値も、その商品を必要とするターゲットにとっては、しっかりと響かないことがありうるのです。
●大企業の新規事業の失敗事例②:イギリス子会社の撤退(メルカリ)
メルカリは、2017年にイギリスに進出しフリマアプリ「メルカリ」を展開しましたが、営業/経常損失は2018年6月期で730万8000ポンド(約10億3900万円)を計上するほどの大失敗に終わりました。2018年12月には、イギリスからの「事業撤退」を報告しています。
イギリス進出に失敗したもっとも大きな理由は「ニーズ検証が不十分だったこと」です。
具体的には「日本とイギリスの文化の違い」に関する調査が不十分だったことが、撤退の主な原因です。
日本と違い、イギリスでは、直接会って物々交換をしたり、現金を手渡ししたりするのが主流です。この慣習にのっとった「Shpock」というオーストラリア発のフリマアプリが人気を博していました。
一方、メルカリは、オンライン上でのやり取りで完結するサービスだったため「文化的な違い」からニーズが薄く、普及が困難だったと予想されています。
参考:
まーけっち【失敗学】30事例 新規事業・スタートアップが失敗を避けるために
引用データ・文献:
メルカリIR 海外子会社の解散及び清算並びに特別損失の計上に関するお知らせ
ヨーロッパのC2Cマーケットプレイス事業・フリマアプリ現状
「その商品・サービスは、ターゲットがお金を出してでも買いたいものか」については、入念なる検討が必要です。
この点について、よく自問自答し、マーケティング・リサーチを徹底することが大切です。
1-3. 歴史のあるちゃんとした会社である
大企業の新規事業の失敗で多いのが「歴史のあるちゃんとした会社である」という点です。この歴史が、1円にもならない勘違いした自負心を社員に持たせる原因になります。
我々は「すごい」「立派」「良いイメージを持たれている」「成功せねばならない」。これらは最悪です。繰り返しになりますが、これらを強く念じても1円にもなりません。今日も明日も明後日も出社してもらうためには必要ですが、新規事業を作る際には不要です。
もちろん、どんな新規事業も「成功」を目指してローンチされるものですが、あまりにも「成功」などのイメージに固執してしまうのは、考えものです。
社員一人ひとりが持っている「柔軟な発想」や「画期的なアイデアの種」が生まれるチャンスを大きく阻害してしまうからです。
例えば、以下のような企業があった場合。
どちらの企業の方が、新規事業のアイデアが集まるでしょうか。
「新規事業」に関する社風の比較 | ||
項目 | 企業A | 企業B |
アイデアを出す環境 | 新規事業の企画会議は、執行役員や部長クラスも集まる。ヘタな発現は許されない雰囲気のなか、これぞと思えるアイデアのみ、勇気をもって発言する | どんな些細なアイデアでも歓迎。「こんな商品・サービスがあったらいいな」のアイデアを、部署の垣根なく全従業員から募集している |
アイデアをカタチにするプロセス | 関係部署だけでなく、全部署の責任者による「許可(ゴーサイン)」が得られなければ、次のステップに進められない | 新規事業開発部の責任者と社長による「許可(ゴーサイン)」が出れば、予算を使ったテストマーケティングが実施可能 |
責任追及の姿勢 | 新規事業のローンチに失敗した部署の実行責任者は、別部署に異動を命じられた事例がある | 失敗したとしても、リーダーやアイデア提供者一人に責任を負わせるようなことは行わない |
いわずもがな、企業Bの方が「質・量」ともに優れたアイデアが集める可能性が高いです。
これまで、新規事業で思ったような成果が得られたなかった場合は「失敗を認めない社風がないか」について、よくよく思い返してみてください。思い当たる節がある場合は「黄色信号」です。
●大企業の新規事業の失敗事例④:「ちょい生」(セブンイレブン・ジャパン)
わかりやすい事例としては、セブンイレブンが商品の発売直前で、提供を中止した「ちょい生」が挙げられます。
「ちょい生」は、セブンイレブン店内で、一杯100円で生ビールを楽しめるものです。
発売前から、商品を求める顧客の熱い声が多く、想像以上の反響がある画期的な商品でした。
この商品をフックに、コンビニに立ち寄る顧客が増えれば「一人当たりの来店頻度」が上がったり、おつまみなどを“ついで買い”する人も増えるでしょう。その結果、「顧客単価」の向上に貢献するかもしれません。
しかし「需要が高すぎるがあまりに「販売体制」「品質保持」がむずかしくなる可能性がある」と、本部が後ろ向きな判断をしたことにより「ちょい生」の発売は中止となりました。
また、手軽にビールが楽しめるようになったことで「飲酒運転を助長する可能性がある」ことについて、懸念した可能性も示唆されているようです。
参考:
まーけっち【失敗学】30事例 新規事業・スタートアップが失敗を避けるために
引用データ・文献:
ライブドアニュース セブン-イレブン「ちょい生」中止騒動 積極的な飲酒の勧めに待った
「ブランドイメージの維持」や「社会に与える影響」を考慮した結果ですが、これらは事実ではなくあくまでも「そういう可能性がある」という妄想による判断です。
新規事業で最も重要なことは、事実をもとに判断することです。
例えば、限られた店舗でテストマーケティングを実施したり、「1日数量限定」「販売時間の限定」「身分証の提示」「20歳以上であることの指さし確認」などの対策を講じた上での実験で集めた「事実=ファクト」をもとに判断した方が良いです。
大企業はブランドイメージを大切にしますが、「絶対に失敗してはならない」という気持ちが強すぎると、新規事業に及び腰になり、実験すらできずに終わります。
1-4. 新規事業をコア業務と兼任させている
4つ目に挙げられるのが「新規事業をコア業務と兼任させている」というポイントです。
例えば、営業担当者が、コア業務である営業活動や部下の管理・育成をしながら、新規事業開発のメンバーにもなり、2つの業務を兼務するようなことです。
このように、複数の業務を兼務させることは、特定の条件下を除き*、おすすめしません。
なぜならば、新規事業へのコミット意識が低下してしまう可能性があるからです。
コア業務が忙しくなれば、新規事業について考える時間が減ってしまうため、片手間になります。
新規事業の開発が思うように進まなければ「コア業務を頑張ればいいや」と投げ出してしまうこともあるかもしれません。
またコア業務を優先するがあまり夕方17時から新規事業検討に取り組むなどの場合、17時から新規事業検討のインタビューさせてもらえる顧客候補なんているわけがなく、会議室から外に出ないタコツボ的、現実を無視した事業検討になりかねません。
複数の業務を兼務させるかたちで、事業開発メンバーを組んでしまうと、社内的には合意できるがお金を払う顧客は1名も見つかっていない、ゴミ案ができる蓋然性が高まります。このゴミ案のタチの悪さは、社内合意は取れてしまうのでその後に取り返しのつかない費用投下を行なってしまうことです。たどり着く先は、「売れない地獄」です。
特定の条件下*
兼務で行う場合でうまく進めさせるためには、新規事業にあてる時間を明確に確保することが重要です。また新規事業と、既存業務の優先度を明確につけて部下に指示する必要があります。月・水・金は新規事業のみ実施、火・木は既存業務のように。また当然ですが、既存業務で求める成果は引き下げることが前提となります。
このように時間が確保されている場合は、専任と比べると速度は落ちますが、兼務であっても新規事業の検討は可能です。
1-5.「自前主義」を徹底しすぎる
5つ目のポイントは「『自前主義』を徹底しすぎる」という点が挙げられます。
要は「ヒト・ノウハウ・資金」のすべてを「社内の人・会社が保有しているノウハウ・会社の内部留保金」などで賄おうとするということです。
これも、多くの日本企業にみられる傾向の一つです。
しかし、よくよく考えてみてください。
大企業といえども、社内で保有しているリソースは、ごくごく限られたもので、しかも既存事業に特化したものであるはずです。既存事業にとっかしていないものは、費用対効果を悪化させるための贅肉でしかないからです。
以下のように3つの質問があった場合。貴社の状況はどうでしょうか。
新規事業に関わる「ヒト・ノウハウ・資金」に対する重要な問い
●ヒト:
新規事業の開発・成功経験があるヒトは、社内にいますか?
●ノウハウ:
新規事業を成功に導くことができる確かなノウハウはありますか?
マーケティングリサーチや、プロトタイプ制作を外注した時に外注先をコントロールするためのノウハウはありますか?
●資金:
新規事業のマーケティング・リサーチや、プロトタイプ制作、テストマーケティングなどのための予算は十分に確保できていますか?
これらの質問に対して、自信をもって「YES」と答えることができるならば「社内完結」でもよいのかもしれません。
しかし「YES」と答えられる企業はそう多くないはずです。
大企業といえども、時代のニーズやトレンドを読み解くことができたり、マーケティング・リサーチに長けた人材がいるとは限らないからです。
なんでも、自社内のリソースだけで完結しようとしていないか。
今一度、問い直してみてください。
以上5つが、大企業が新規事業で失敗する理由です。
“大企業が新規事業に失敗する理由5つ”
- ニーズはあるが、実現方法がNG
- そもそも、ニーズがない
- 歴史のあるちゃんとした会社である
- 新規事業をコア業務と兼任させている
- 「自前主義」を徹底しすぎる
貴社の状況に当てはまる項目はありましたか?
次の第2章がいよいよ本題です。これまで挙げた5つの失敗を「回避するためのポイント」を解説します。
引き続き、ご覧ください。
2. 大企業が新規事業に成功するためのポイント(注意点)5つ
第2章では、1章で取り上げた「失敗事由」の解決策を解説します。
ポイントは全部で5つです。
大企業が新規事業に成功するためのポイント(注意点)5つ | |
失敗する理由 | 成功させるポイント(注意点) |
ニーズはあるが、実現方法がNG | 新奇性のある商品・サービスを開発する |
そもそも、ニーズがない | ニーズの有無を徹底リサーチする |
歴史のあるちゃんとした会社である | チャレンジを推奨する社風を醸成する |
新規事業をコア業務と兼任させている | 新規事業専任メンバーの抜擢等の施策により「コミット意識」を高める |
「自前主義」を徹底しすぎる | 「オープンイノベーション」で新規事業を進める |
一つずつ、見ていきましょう。
2-1.新奇性のある商品・サービスを開発する
失敗する理由 | 成功させるポイント(注意点) |
ニーズはあるが、実現方法がNG | 新奇性のある商品・サービスを開発する |
大企業が新規事業で成功するには「今までなかったけど、こういうの欲しかった!」と、多くの人が思うような新奇性のある商品・サービスを開発することが大切です。
言い換えれば「多くの人々の潜在ニーズを捉えた商品・サービスを開発すること」といえるかもしれません。
●大企業の新規事業の成功事例①:
ゲーマーのみならず日本中のダイエッターも魅了した「リングフィットアドベンチャー」
わかりやすい事例としては、任天堂のゲーム「リングフィットアドベンチャー」が挙げられます。この商品は2019年10月の販売開始以来、2021年8月までの2年余りで、累計売上本数が「1011万本」を突破している大ヒットゲームです。
リングフィットアドベンチャーは、専用コントローラー「リングコン」を使って、敵と戦いながらステージをクリアしていくゲームです。「冒険しながらフィットネス」がキャッチフレーズになります。
このゲームは「身体を動かして楽しく遊びたい」という顕在ニーズだけでなく、多くの人々のニーズを抱えた人々の悩みも解決できる点で評価できるゲームです。
この商品の場合、以下のようなニーズを満たしています。
「ダイエットのモチベーション維持させたい」(ダイエットを成功させたい30~50代)
「楽しくダイエットをして、減量に成功したい」(ダイエットを成功させたい30~50代)
「楽しく体を動かして、健康維持に役立てたい」(健康に不安をかかえる60代~70代の高齢者)
多くの人々が心のうちに抱いていた「こんな商品があったらな…」という思いを体現した商品だったため、老若男女問わず、多くの人々の心をとらえました。その結果、爆発的なヒットにつながったのです。
とりわけ大企業の場合、一部のコアな人だけをターゲットにするのではなく「たくさんの利用ユーザーが見込める(=ユーザーのパイが大きい)」ことが大きなポイントになります。ただし、いきなりマスに売ろうとすると失敗します。当たり前ですが、みんなが良いと言ったところで、誰か1人は確実にお金を払う状態にまでアイディアを作り込まなければ、誰も購入しないことには気をつけてください。
例えば「ゼクシィ」や「スタディサプリ」など、数々の新規事業を成功させてきた東証一部上場企業の「リクルート」の場合、最低でも100億円の市場規模が見込めなければ採用されないことが知られています。
その点、リングフィットアドベンチャーは、一部のゲーマーだけでなく、老若男女問わず、さまざまな人々のニーズをとらえているため、爆発的なヒットにつながったものと考えられます。
この事例のように、大企業が新規事業を開発する際には「新奇性多くの人々のニーズを満たす新奇性のある商品を開発する」ことを心がけてください。
2-2. ニーズの有無を徹底リサーチする
失敗する理由 | 成功させるポイント(注意点) |
そもそも、ニーズがない | ニーズの有無を徹底リサーチする |
1つ目と関連しますが、大企業の新規事業のローンチでは、ニーズの有無を徹底的にリサーチすることが大切です。
顧客のニーズを見極めるためのマーケティング・リサーチには、以下のような手法が挙げられます。
いくつかの手法を組み合わせることで「ターゲットはどのような商品・サービスを求めているのか」が把握できます。
5つ顧客のニーズを見極めるためのマーケティング・リサーチの手法例 | |
手法 | 内容 |
定性調査 (インタビューによる意識調査) | インタビューなどにより、VOC(顧客の声)を収集する。顕在ニーズを洗い出したり、アイデアへのリアルな反応意をチェックしたいとき、ざっくりとしたアイデアをブラッシュアップしたいときなどにおすすめ |
定量調査 (「Q&A」「選択式の問い」などによる意識調査) | ニーズが見込めるターゲット層の市場規模を把握できる。新規事業の仮説やざっくりとしたアイデアが、ある程度、固まった段階で実施するのがベスト |
VOC分析 | 自社のコンタクトセンター(コールセンター)に寄せられたVOC(顧客の声)のなかから「クレーム」や「こんな商品がほしい」などの声を収集・分析して、新規事業開発に生かす |
Web動向調査 | 検索ワードのボリュームやSNSでのヒット・トレンドなどを分析する。 |
クラウドファンディング | 新規事業アイデアをクラウドファンディング上で公開する。資金や支援者の集まり具合をみて、新規事業にニーズがあるかを見極める |
「どのマーケティング・リサーチを実施すべきか」「どんな質問を行うべきか」は、事業内容によって異なりますが「自分のなかに何かしらの仮説を立てて質問を行う」という態度は、どんなマーケティング・リサーチを行う場合にも通底する重要ポイントです。
ここでは、イメージが湧きやすいよう、イタリアンのお店が新規事業を始めるケースで、ご説明しましょう。
●イタリアンが新規事業を始める場合
例えば、あなたが、イタリアンを営んでいて、売上が伸び悩んでいる場合。
新規事業として「カルツォーネの専門店」を開業するとします。
(カルツォーネは、トマトやモッツアレラが包まれたイタリアのワンハンドフードです)
その場合、マーケティング・リサーチの一環で「カルツォーネの専門店があったら、足を運んでみたいと思いますか?」と聞いても、使えるデータはそう集まりません。
せいぜい「食べたことがないから行ってみたい」「どんな食べ物か知りたい」といったレベルの回答に留まる可能性が高いです。
一方、自分なりの“具体的”な仮説を立てたうえで、具体的な質問を投げかけると、開業のヒントになる有効なデータが集まる可能性が高いです。
質問例は以下の通りです。
自分なりの仮説に基づいた質問例 | |
仮説 | リサーチの質問 |
ワンコインランチを提供したら 喜ばれるのではないか | ランチで「カルツォーネ+ワンドリンク=500円」のセットがあったら、2週間に1回くらいは足を運んでみてもよいですか? |
「サブウェイ」のように、食材のトッピングが自分でできたら、嬉しいのではないか。「食べ放題の店」は人気を得やすいため、同じようなサービスがいいかもしれない | お店では、好きな食材を好きなだけトッピングできる「トッピングし放題サービス」を提供予定です。実際に試食会にご参加いただいて「もう一度足を運んでみたい」と思われましたか? |
小腹満たしに「デザート・カルツォーネ」があったら、喜ばれるかもしれない | イチゴとホイップクリームをフィリングした「デザート・カルツォーネ」を300円で販売予定です。実食してみて「もう一度食べたい」と思える味でしたか?価格は妥当だと思いましたか?率直な意見を教えてください。 |
ぜひ、参考にしてみてください。
2-3. チャレンジを推奨する社風を醸成する
失敗する理由 | 成功させるポイント(注意点) |
歴史のあるちゃんとした会社である | チャレンジを推奨する社風を醸成する |
「チャレンジを推奨する社風を醸成する」のも、大企業が新規事業を成功させるために押さえたい重要ポイントです。
●リクルート:創業者が掲げる「社員皆経営者主義」のスピリット
先述の通り、リクルートは社内から、数々の新規事業が生まれ、その多くが成功を収めている稀有な会社です。これまでローンチされた「ゼクシィ」「R25」「カーセンサー」「スタディサプリ」などのサービスは、皆さんもよく知るものばかりではないでしょうか。
リクルートのように、数々の新規事業を成功させてきた企業には「チャレンジを推奨する風土」があります。リクルートの創業者である江副氏は「社員皆経営者主義」を創業時より掲げることで、チャレンジ意識を高めています。
そのため、社内起業制度「Ring」には、毎年1000件近くもの新規事業アイデアが寄せられていることが知られています。
また、就活の面接で「3年で退社して起業する予定です」というような学生であっても、能力が高ければ採用し、その人の夢が実現するよう、全面的にバックアップすることも知られています。
若い社員も退職金がもらえる「退職金制度」を用意しているのも、起業家を応援するリクルートの姿勢を表す顕著な例です。
●サイバーエージェント:「失敗しても恥ではない」という風土
サイバーエージェントも同様です。
「失敗しても恥ではない」という風土があるとともに、左遷や解雇をするようなこともありません。
新規事業の半分以上は失敗するという前提があると、社員はたくさん失敗しても気にしません。4つ目が敗者復活の数。失敗した人が恥をかいたり新規事業への挑戦をやめると会社の財産になりません。基本的に失敗したとしても労うことを大事にしていますし、失敗だからと言って左遷や解雇はもちろんしません。こういうい事例が増えれば、また新規事業に挑戦したいと思えるようになります。
出典:チャレンジ挑戦する文化をつくるために企業と個人ができること【ONE JAPAN CONFERENCE 2020レポート:CULTURE②】
チャレンジする風土を醸成する方法としては、以下のようなアイデアがあります。
必要に応じて、取り入れてみてください。
チャレンジする風土を醸成する方法”
- 多様な事業アイデアを募る「社内起業制度」を作る
- 若い社員も受け取れる「退職金制度」を作る
- 「失敗してもOK!どんどんチャレンジしよう」という考えを、社長・幹部・管理職が積極的に示す
- 失敗したからといって、業績評価を下げたり、左遷・解雇などの処置を行わない
- アイデアの良し悪しに関わらず、意見を発信するチャレンジそのものを評価する(=プロセス評価をする)
失敗を認めない社風がある会社からは、良質な事業アイデアは生まれにくいものです。
リクルートやサイバーエージェントのように、チャレンジを推奨する風土を醸成してみてください。
「まずはアイデアをどんどん出そう!周りの目を気にするな」の精神が大切です。
2-4. 新規事業専任メンバーの抜擢等の施策により「コミット意識」を高める
失敗する理由 | 成功させるポイント(注意点) |
新規事業をコア業務と兼任させている | 新規事業専任メンバーの抜擢等の施策により「コミット意識」を高める |
コア業務と兼務する「各部署の寄せ集めメンバー」で構成された事業開発プロジェクトは、推奨しないとお伝えしました。
新規事業がうまくいかないときに「コア業務を頑張ればいいや」と逃げたりして、コミット意識が低下してしまう恐れがあるからです。
その解決策は、新規事業の専任担当者をアサインするということです。
これは至ってシンプルな論理です。
自分のコア業務(ミッション)が「新規事業の立ち上げ・成功」となれば、そのミッション達成に向けて力を注ぎやすくなります。優れたアイデアの創出や、顧客視点に立ったサービスの作りこみがしやすくなるでしょう。
新規事業部に、専任担当者をアサインするだけの予算がない場合は「インセンティブ」を用意するのが有効です。社員たちのパーソナリティや社風の傾向に応じて、必要なインセンティブを考えてみてください。
新規事業メンバーのコミット意識を高めるインセンティブ例
●成長意欲に応えるインセンティブ
・社長や役員からフィードバックがもらえる
・国内外の視察会や特別研修に招待する
・書籍の購入を無制限に認め、社内に事業創出のための図書館を作る(圧倒的に安い)
●承認欲求・出世欲に応えるインセンティブ
・賞金・商品を提供する
・コーポレートサイトで、新規事業のメンバーや彼らの取り組みをレポートする
・社外の専門家やビジネス界隈の著名人、役員との懇親会に招待する
・社内報や社内リリースにインタビュー記事を掲載する
●失敗を恐れずにチャレンジしてもらうためのインセンティブ
・失敗しても評価を下げないことを確約する(左遷・部署異動などの禁止)
・新規事業に必要な予算をじゅうぶんに提供する
また守りの対策として「失敗しても評価が下がらない評価制度にする」のも有効です。
ぜひ、検討してみてください。
2-5.「オープンイノベーション」で新規事業を進める
失敗する理由 | 成功させるポイント(注意点) |
「自前主義」を徹底しすぎる | 「オープンイノベーション」で新規事業を進める |
自前主義を徹底しすぎると、新規事業に必要な「ヒト・ノウハウ・資金」が不足する恐れがあることをお伝えしました。
その解決策としては「オープンイノベーションで新規事業を進める」のがおすすめです。
オープンイノベーションとは、自社にはないアイデア・ノウハウ・人材・資金などを、それらをもっている外部の企業から取り入れることで、新たな価値を創出することです。
日本でも、大手企業を中心に、オープンイノベーションによる取り組みが急速に増えています。
●ユニクロのアパレル商品のヒットの裏には「東レとのオープンイノベーション」があった
わかりやすい事例としては「ユニクロ×東レ」によるオープンイノベーションが挙げられます。
フリースがヒットしたユニクロの柳井社長は2000年頃、技術力・開発力のある企業との協業が必要だと考えました。
そこで、素材開発に強い東レに声をかけたことで、協業が実現しました。
「ヒートテック」「エアリズム」「ウルトラライトダウン」などのヒット商品の影には、東レとの巧みなコラボレーションがあったのです。
新規事業をスタートする際には、ヒト・ノウハウ・資金のいずれかが不足することがほとんどです。
うまくいかなくなったときには、迷わず、それらをもっている企業とタッグを組むことを検討してみてください。
改めてポイントを整理します。
新規事業の失敗を回避するには、以下のポイントを押さえてみてください。
大企業が新規事業に成功するためのポイント(注意点)5つ | |
失敗する理由 | 成功させるポイント(注意点) |
ニーズはあるが、実現方法がNG | 新奇性のある商品・サービスを開発する |
そもそも、ニーズがない | ニーズの有無を徹底リサーチする |
歴史のあるちゃんとした会社である | チャレンジを推奨する社風を醸成する |
新規事業をコア業務と兼任させている | 新規事業専任メンバーの抜擢等の施策により「コミット意識」を高める |
「自前主義」を徹底しすぎる | 「オープンイノベーション」で新規事業を進める |
3. 大企業の新規事業の成功例2つ
大企業の新規事業を成功させるポイントについて、理解が深まりましたでしょうか。
この記事をご覧になっている方のなかには「大企業の新規事業の成功事例も知っておきたい」と思うのではないでしょうか。
そこで、本章では、2つの成功事例について解説します
大企業の新規事業の成功例2つ
- 「スタディサプリ」 (リクルート)
- 「スープストックトーキョー」(三菱商事)
一つずつ、見ていきましょう。
3-1.「スタディサプリ」 (リクルート)
出典:スタディサプリ
「スタディサプリ」は、リクルートの社内ベンチャー(新規事業)の一つとして誕生したWebサービスです。
有名予備校の講座を「月額980円」で利用できます。
2011年に、会員制の無料受験情報サイト「受験サプリ」としてスタートしたサービスですが、紆余曲折を経て、2016年に「スタディサプリ」として、現在のサービス形態になっています。
2020年時点での有料会員数は「140万人」となっており、ものの10年ほどで驚くほどのシェアを獲得したことがわかります。
月額980円のサービスに加えて、月額1万9800円のオプションコースの受講会員もいることから、年間120億円近い売上があるのではないかと予想するサイトもあるほどです。
成功の要因は「月額980円で有名講師の授業を全教科受け放題」という価格破壊的なサービス内容にあると考えられます。
2章で取り上げた「新奇性のある商品・サービスを開発する 」のヒントになる新規事業の成功事例として、大いに参考になります。
3-2.「スープストックトーキョー」(スマイルズ)
出典:スープストックトーキョー
「スープストックトーキョー」は、多種多様なこだわりのスープを楽しめるスープ専門店です。
ネクタイ専門「giraffe」やセレクトショップ「Pass THE BATON」など、数々の新規事業を立ち上げているスマイルズが手がけた事業の一つです。
創業10年ほどで、売上高は42億円に達しており、2017年時点で全国に54店舗も展開しています。
この事業の成功の要因は「女性がフラッと一人で立ち寄れるおしゃれでヘルシーなファストフード店」というブルーオーシャンを攻めたポジショニングを確立したことだと考えられます。
事実、スープストックトーキョーの立ち上げに携わった遠山正道代表は「女性が1人でも入れるファーストフードチェーンを作る」という考えがあったようです。
2章で取り上げた「新奇性のある商品・サービスを開発する」のヒントになる成功事例として、参考になります。
4. 新規事業の立ち上げは「Beth」までご相談ください
本記事をここまで読んだ方のなかには、以下のような感想を抱いた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「新規事業で失敗を回避するためのポイントはわかった。でも、自分たちだけで、新規事業を成功させる自信はない」
そのような方は、新規事業の開発コンサルティングを手がける「BETH」までご相談ください。
大手一部上場企業・中小企業・地方自治体様への「新規事業立ち上げコンサルティング」を数多く手がけてきました。以下、コンサルティングを手掛けた実績の抜粋となります。
“Bethのコンサルティング実績”
- 大手自動車の新規事業検討の伴走支援
- 新規事業コンテストの立上げ・運営支援
- 年商 45兆円/年アイディアの提供(大手自動車)
- 障がい者雇用のデータビジネスの検討(チームReLife)
- 大手損保の新規事業検討伴走支援 ほか多数
まずは、貴社のお悩みをお聞かせください。
ベストな解決策をご提示できる自信があります。
5. まとめ
いかがでしたか。「大企業が新規事業の失敗する理由」や「失敗の回避策」について、理解が深まったでしょうか。
ここで本記事の内容をまとめます。
●大企業が新規事業に失敗する理由5つ
- ニーズはあるが、実現方法がNG
- そもそも、ニーズがない
- 歴史のあるちゃんとした会社である
- 新規事業をコア業務と兼任させている
- 「自前主義」を徹底しすぎる
●大企業が新規事業に成功するためのポイント(注意点)5つ
- 新奇性のある商品・サービスを開発する
- ニーズの有無を徹底リサーチする
- チャレンジを推奨する社風を醸成する
- 新規事業専任メンバーの抜擢等の施策により「コミット意識」を高める
- 「オープンイノベーション」で新規事業を進める
●大企業の新規事業の成功例2つ
本記事が、新規事業の企画・開発に携わる方のお力になれましたら嬉しいです。