DXの中小企業ならではの課題とは?乗り越えるべき4つの壁

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私が書きました 河上 泰之
DXサイコロと人

「世間で話題になっている‟DX”だが、自社もそろそろ取り組むべきなのだろうか」

「大手企業だけの取り組みと思っていたが、同規模の競合他社もDXに取り組んでいるようだ」

「予算も人員も限られている中で、中小企業がDXを進める上での課題は何なのだろう……?」

 

今や日常生活や行政レベルでも話題になっているDX(デジタルトランスフォーメーション)。

日本では2018年に経済産業省がDXに関するレポートを発表して以降、国内企業でもここ3年ほどでDX推進の取り組みが加速しています。

 

大手企業中心の取り組みという印象でしたが、昨今のコロナ禍で「オンライン営業」や「リモートワーク」が普及したことで、中小企業でもDXは喫緊の課題となりつつあります。

しかし資金力などが潤沢にあるわけではない中小企業では、闇雲にDXに取り組むのではなく課題をしっかり認識したうえで「自社が取り組める部分」を見極めることが重要となります。

 

DXを推進するにあたっては、多くの中小企業ならではの超えるべき課題が4つあります。

 

DXを進める上での4つの課題

  • 経営陣のDXへの理解不足
  • 従来型のビジネス慣習への依存
  • IT人材・IT予算確保の難しさ
  • ペーパーレス化が進んでいない

 

ここまで読めば、自社が重点的に克服すべき課題の目処がつきます。

しかし本格的にDXを推進していくためには、もう少し課題に踏み込んで対応を考える必要があります。

 

記事の後半では、DXを進める上での課題の乗り越え方や事前に準備すべき内容も踏み込んでお伝えします。

 

DXを進めるために

  • 中小企業のDXの現状を理解する
  • DXを進めるメリットを再確認する
  • DXの推進の準備をするための最初の一歩を知る

 

最後までお読みいただければ、仮に今後自社がDXを進めて行くとしたら「どの範囲で、どんな段取りで進めていくべきか」という目処が立てられるはずです。

 

これだけ世間を賑わせているため、DX化はどんな企業でも重要課題であることは間違いありません。しかし体力不足の中小企業では、事前に準備やDXの範囲を見極めないと現場の混乱も招きかねません。

 

今回の記事でDXの課題のリアリティを高めていただき、自社で推進する際には成果を出せるよう実践的なDX取り組み計画を組んでいただければ幸いです。

 

1.DXを進める上での中小企業の課題4つ

説明する手とグラフ

DX推進を検討した際に、多くの中小企業で頭を抱える課題は、以下の4つに集約されます。

  • 経営陣のDXへの理解不足
  • 従来型のビジネス慣習への依存
  • IT人材、IT予算確保の難しさ
  • ペーパーレス化が進んでいない

具体的に一つひとつを解説していきます。

 

1-1.経営陣のDXへの理解不足

現場の従業員がDXのを推進を求めていても、経営陣にDXの理解や知識が乏しいことが課題になることがあります。

 

中小企業は予算や人員配置を経営トップもしくは経営陣が采配を奮うことがほとんどです。DXを進めることに経営陣がコミットをしていると、人や予算など会社の資源を投下して推進を後押ししてくれます。

また推進途中にも、DXを経営上の重要ミッションと捉えプロセスを注視し、頓挫した際も経営陣自ら鼓舞するようなサポートも得られます。

 

しかし、経営陣がDXに対しての理解や覚悟がない場合は、たとえDXに総論は賛成していても、お金や人員を割いてまで具体的にDXを進めることには難色を示しがちです。

 

一般的な中小企業では、経営陣のDXへの理解不足により、具体的に以下のような課題現象が起こりがちです。

 

【中小企業が陥りがちな状況】

  • 現場の業務プロセスの改善案を経営陣に提示しても、「気合で乗り切れ」のような精神論で返されてしまう
  • DX推進の予算も体制も確保していたが、期中に他の優先順位が高い案件が浮上し、経営陣からDXのプロジェクトにストップがかかった

 

特に中小企業の経営陣は売上げに直結しない取り組みを敬遠する傾向が強いです。

従業員の業務プロセスの生産性を上げるためのDX化については、経営陣のポリシーに左右されるといっても過言ではないでしょう。

1-2.従来型のビジネス慣習に依存している

DXを阻む課題として、従来型のビジネス慣習から抜け出せないことも大きな理由となっています。

DXはある種の‟流行り言葉”となっている影響もあり、頭では「DXが必要」と分かっていても、実際に体の動きがついてこない社員がネックとなるのです。

 

本来人間には、特別大きな事情がなければ、変化を避けて現状を維持しようとする「現状維持バイアス」という特性が備わっています。そのため、新規の取り組みの際は心理的なハードルが上がってしまいます。

 

特に中小企業の場合は少数精鋭で事業運営しているケースがほとんどです。業務プロセスはベテランの社員に依存する傾向が強まり、ベテラン社員ほど従来のやり方に固執するという状況も多いようです。

 

従来型のビジネス慣習に依存している場合は、具体的には以下のような課題現象が起こりがちです

 

【中小企業が陥りがちな状況】

  • 中途採用で入社した若手社員から「このプロセスは必要ですか?」など疑問の声が上がるものの、古参の社員が「今まではこれでやってきたのだから」と押し通してしまう
  • もう1回説明を挑戦し「費用対効果を示せ」と言われて示したが、「そんな程度ではやる意味がない」と一蹴された
  • 上司に顧客とのオンライン面談に同席してもらおうとしたが、直接対面のアポイントじゃないと嫌だと断られた

 

古いビジネス慣習は直接的にDXを阻むわけではないです。しかし「新しいことを取り入れよう」という社内の気運がないと、DXはスムーズに推進しにくくなります。

 

1-3.IT人材・IT予算を確保できない

DXを進めるにあたって、対応できるIT人材や予算が確保できない点がネックとなっている企業は多いです。

具体的に2つの観点で、中小企業でどのようなことが起こっているかを解説します。

 

1-3-1.IT人材は社内人員の確保も採用も難しい

ただでさえ生産年齢人口の減少傾向が続く日本ですが、中小企業の人材不足は深刻です。

必要最小限の人員で事業運営をしているため、既定路線から外れる新しい取り組みに人員を割ける余力はありません。

 

実際、中小企業の約66%が「労働力不足」を感じているというデータもあります。慢性的な労働力不足を抱える中小企業のIT人員は、既存システムの管理や運用で手がいっぱいな状況がうかがえます。

参考:中小企業における人手不足の現状等について【日本・東京商工会議所 】

 

新たな採用を考えると、さらにIT人材確保の高いハードルが中小企業にのしかかります。

企業規模問わず世の中は深刻なIT人材不足に陥っており、2025年には約36万人の IT 人材が不足すると試算されています。知名度や労働条件で大手企業に叶わない中小企業が、苦戦を強いられるのは想像に難くありません。

参考:IT人材需給に関する調査【経済産業省】

 

このような背景をもとに、中小企業のDXを進める上では以下のような課題現象が散見させます。

 

【中小企業が陥りがちな状況】

  • DXを進めようとIT部門の社員にヘルプを頼んだものの、新規の取り組みで工数が読めず、推進過程でITの部門長から「既存業務に支障を来たす」とクレームが入ってしまった
  • DX推進のためにIT人材を外部採用しようとしたが、魅力がある採用条件が提示できず大手企業に内定をさらわれてしまう

 

ただでさえ人材不足の上にIT人材確保のハードルが高すぎるため、中小企業において DX推進が難しくなるのです。

 

1-3-2.IT予算は既存システムの保守に回される

 

日本企業の多くは、IT予算のほとんどが現行システムの維持・保守に費やされています。

実際にIT予算の維持・保守予算の割合が8割以上を占めている状況で、新たな取り組みであるDXの予算が確保できない実情があります。

参考:日本情報システム・ユーザー協会『企業IT動向調査2019』

 

具体的には以下のような課題現象が起こりがちです。

 

【中小企業が陥りがちな状況】

  • 既存のシステム保守の予算を回してもらいたいが、DX化の予算の必然性や予算根拠が示しきれない
  • 僅かながらもDXの予算を確保していたものの、期中に既存システムのトラブルが発生し、リカバリーのためにDX予算が消費された

 

既存システムはIT予算もさることながら、人員をも囲い込む悪循環を生みがちです。古いシステムは一部の社員しか仕様が分からず、必ず保守人員を置くことを余儀なくされてしまうのです。

 

中小企業に限らず、世の中全体でのDXが進まない理由を知りたい方は、以下の記事もご一読ください。

➤➤DXが進まない理由とその解消法を解説|DXは土台作りが推進のカギ

 

1-4.ペーパーレス化が進んでいない

ペーパーレス化が進んでいない中小企業は、DXを検討する前提の段階で課題があるといえます。

紙のやり取りは手渡しが前提となるため、社員がその場所にいる必要があります。また、紙の保管場所や受け渡しのやり取りなど、多くの無駄を生んでいる可能性があります。

 

特に注視したいのが、紙を使う業務範囲の広さです。社員の勤怠管理、社内の備品管理などの社内業務から顧客との契約書管理まで広範囲で紙を使っている場合は、業務プロセスの根幹に紙が絡んでいることになります。

 

実際中小企業の総務担当者へのアンケートによると、総務業務の課題の2位が「紙やExcelで管理する業務が多く非効率」となっていました。中小企業の紙依存がうかがえる結果です。

参考:「総務の業務課題に関する実態調査」【BtoBプラットフォーム 契約書】

 

ペーパーレス化が進んでいない弊害として、具体的には以下のような課題現象が起こりがちです。

 

【よくある課題現象】

  • クラウドツールを検討したものの、過去の紙データを入力する膨大な工数が捻出できず、導入検討が止まった
  • ペーパーレス化を推進しようとしたが、古参社員の仕事が奪われるなどの反対意見が押し寄せた

 

ペーパーレス化からの脱却の悩ましい点が、自社のみで完結しにくい部分があることです。

自社が電子契約などを進めようと思っても、大口の取引先などから反論を受けるケースもあります。顧客も含めてDXを進める労力まで確保できず、DXの検討が遅々として進まない状況に陥ってしまうのです。

 

2.中小企業のDX化の現状

指差すビジネスマン

取り組みが遅れがちな中小企業のDX化ですが、世の中の調査結果を探ると、大手と比べるとかなり進んでいないことが分かりました。

 

  • DXの理解度は3割程度で、実際に取り組んでいるのは1割以下の企業
  • 取り組み内容は「ホームページ作成」や「業務のオンライン化」
  • 「当面進まない」という後ろ向きな回答が多い

 

などが主な概要です。

 

この結果を見て「他の中小企業も進んでないなら自社も先送りするか」と判断することもできますが、「他の中小企業に先んじてDXを進めればビジネスチャンスが生まれる」と解釈することもできます。

自社がどのようなスタンスを取るべきかを考えながら、世の中の中小企業のDX化の現状をお読みください。

 

2-1.DXの理解度は3割程度

まず「DX」という言葉の理解度を100名以下の企業にヒアリングしたところ、「理解している」「ある程度理解している」と回答した人は調査全体の3割以下の比率でした。

 

「理解していない」と回答した人の方がわずかに上回っている状況なので、中小企業でDXの取り組みを進める際には、まずは「DXとは何か」という啓蒙を社内で進める必要があることがうかがえます。

「DX」という言葉を理解していますか?

参考:中小企業の DX 推進に関する調査【独立行政法人 中小企業基盤整備機構】

 

なお同じ質問項目で100名以上の企業は「理解している」の比率は7割以上となっています。大手企業ではある程度DXの理解が進み、推進しやすい土壌が形成されていると言えるでしょう。

 

2-2.実際に取り組んでいるのは1割以下

次に実際のDXの取り組み状況をヒアリングしたところ、既に取り組んでいる」との回答は6%で、調査全体の1割以下の比率に留まりました。

 

「取り組んでいない(取り組む予定がない)」と回答した人は全体の40%ですが、「取り組みを検討している」「必要と思うが取り組めていない」という、いわば‟積極検討ゾーン”の回答が54%と最も回答が多かった点にも注目が必要です。

この5割強の企業が今後DXを前向きに推進すれば、中小企業にも一気にDXの波が押し寄せることが予想できます。

DXの取り組み状況は?

参考:中小企業の DX 推進に関する調査【独立行政法人 中小企業基盤整備機構】

 

なお同じ質問項目で100名以上の企業は「取り組んでいる」の比率は2割程度となっています。しかし「取り組む予定がない」と明確に回答した企業は14%程度なので、もはや大手企業ではDX推進は喫緊の課題となっている状況がうかがえます。

 

2-3.取り組み内容は「ホームページ作成」「業務プロセスのオンライン化」が多い

企業規模を問わず「DXに取り組んでいる」「取り組む予定がある」企業に、具体的な内容をヒアリングしたところ、上位2つは「ホームページ作成」と「業務プロセスのオンライン化」でした。

参考:中小企業の DX 推進に関する調査【独立行政法人 中小企業基盤整備機構】

 

企業の優先順位に応じて、対外的に見えやすいホームページでDXに着手する企業と、身近な業務プロセス改変でDXに着手する企業に二分されるようです。

 

まだまだDXが進んでいない中小企業では、「比較的成果が見えやすい」「比較的手を出しやすい」などの業務から着手する傾向が読み取れます。自社がいま全くDXに取り組んでいない場合、DXのスコープはこの2つの観点で考えると、絞り込みやすくなる可能性があります。

 

2-4.興味があるが当面進まないという予想が半数以上

最後に、中小企業の今後の動きを読み取るため、今後のDX推進への意向を聞いた調査を紹介します。

 

==DXへの興味関心度合いと、今後のDX進行スピードについて==

  • DXを知らない企業のうち、DXに興味があるのは43%
  • DXが当面進まないと思っている企業は63%(「3年以内に進む」は37%)

参考:中小企業におけるDX実態調査(株式会社ネットオン)

 

という結果となりました。

この結果が示唆しているのは、中小企業の半分以上は当面DXが進まないと言う一方で、4割程度の中小企業は3年以内にDXを進める可能性があるということです。

 

仮に4割程度の企業がDXに大きく舵を切った場合、残りの6割はDX化に取り残される状況となります。つまり、3年後には中小企業でもDX推進の明暗がくっきりと分かれることも予想されるのです。

 

3.DXに取り組むと得られるメリット

電話で話すビジネスマン

おそらく「一切DXに取り組まなくても大丈夫」と思われる方はいないでしょう。しかし着手を躊躇するのは「結局、どんなメリットがあるか分からない」という理由もあるのではないでしょうか。

 

実際に先行してDXを推進した中小企業が恩恵を受けているポイントは、おおよそ以下の5つに集約されます。

  • 生産性が向上する
  • コストカットができる
  • 人材獲得力が向上する
  • ビジネストラブルを回避できる
  • 新規ビジネスが創出できる

具体的に一つひとつを解説していきます。

 

3-1.生産性が向上する

DXの目的の大半は、業務効率化です。業務が効率化すれば、空いた人員の稼働を別業務に回すことができるため、会社全体の生産性の向上につながります。

 

代表的な取り組みとしては、書類の業務をなくしてデジタル化する動きなどです。たとえば、書類作業の押印や資料を電子化できると、やりとりや管理がオンライン上で進められて、従業員の作業量を減らす取り組みにつながります。

 

もう少し中長期の目線で捉えると、企業の競争力を上げるためにも、社内生産性の向上は必須となります。足元の業務をスリムにしておけば、新規事業など新しい取り組みをする余力も生まれやすくなるからです。

 

3-2.コストカットができる

DXを進めて業務効率化ができれば、生産性向上のために労働力をまわすこともできますが、余剰人員や無駄な場所を整理し、コストカットすることにも繋げられます。

 

たとえば、従来社員が行っていたルーチン業務をオンラインのやりとりで進めると、人件費の削減につながるでしょう。また、書類作業をなくしてデータで情報共有や管理ができると、書類を保管するためのオフィス縮小ができコストカットがはかれます。

 

社内全体の仕組みをスリム化しコストカットにつながる点は、中小企業がDXを推進した際に得られる大きなメリットとなるでしょう。

 

3-2.人材獲得力が上がる

人材採用の観点では、知名度や報酬などの条件が大手企業に劣りがちな中小企業は「働きやすさ」が重要になります。

DXを推進し、無駄なプロセスなどがない業務プロセスを構築できれば、特に若手社員の人材獲得力の向上が期待できます。

 

‟ワークライフバランス”などの言葉に代表されるように、今は会社とプライベートを同時に充実させる働き方が主流の時代です。リモートワークが出来る環境や、勤怠管理や承認業務が電子化された環境は、新たな人材採用の武器になるだけでなく、既存社員の離職防止にも効果を発揮します。

 

DXを進めることは、物理的な環境整備だけでなく社風改善も同時に行えるメリットもあります。DXの取り組みを通じて「無駄な作業を省く文化」や「社員の不平・不満を取り入れる風土」などが社員一人ひとりに醸成できれば、中長期的な好影響が期待できるでしょう。

 

3-3.ビジネストラブルを回避できる

DX化を進めておけば、企業の存続や今後の法改正にも対応できる体力を手に入れることができます。

代表例として「BCPの拡充」「インボイス制度への対応」を以下で紹介します。

3-3-1.BCPの拡充に繋がる

DX化を推し進めることで、BCP(災害などの緊急事態に遭遇した時に損害を最小限に抑えつつ、事業の継続や早期復旧を図るための計画)の拡充につながります。

 

省人化や自動化を行い最小の人員で操業できるようにしておけば、災害発生時に大勢の従業員を確保する必要がなくなります。情報もクラウド上にあり、連絡もオンラインで行えるので、迅速に操業を再開できます。

 

2011年の東日本大震災では、事業存続の危機に立たされる中小企業が相次ぎました。しかしその当時から危機意識を持ってDXを進めていた企業は、現在は想定外の災害などに耐えられる体力を手に入れているでしょう。

 

3-3-2.インボイス制度に対応できる

中小企業でペーパーレスを急ぐ必要がある法規制の一つとして、2023年10月より施行される「インボイス」制度への対応が挙げられます。請求書(invoice)にまつわる制度なので、ほぼ全ての企業に影響があります。

 

紙の請求書でやり取りしている経理部門にとっては、DXの一環で「電子インボイス」などの対応を進めておけば、煩雑なやり取りを回避することが出来ます。

 

インボイス制度とは?(電子インボイス制度とは?)

インボイス制度の正式名称は「適格請求書等保存方式」です。インボイス制度導入後は、仕入れ先が発行した適格請求書が無ければ仕入税額控除ができない状況になります。
単純に請求書の必須項目が増えることで、業務負担が増加することが予想されます。特に「この取引は仕入税額控除の対象か(適格請求書があるか)」をチェックして、複数税率ごとに会計処理を行うのは大変な作業です。

これらの業務効率化を目指して、電子化(データ化)されたインボイスを普及する動きが加速しています。

請求情報を自動で取り込めれば、仕入税額控除の計算もシステムが自動で行ってくれます。また、たとえば社内の販売管理システムとの連携を行っていれば、取引情報をもとに会計システムでの処理も自動化でき、さらなる業務効率化が可能となるのです。

参考:インボイス制度の概要【国税庁】

 

とかくDXのターゲットになりやすい経理部門ですが、インボイス制度への対応が引き金となり、中小企業でもDXの動きが広がりつつあります。いち早くDX対応している企業は、業務の煩雑さや計算ミスが減らせる可能性を手にしています。

 

3-4.新規ビジネスを創出しやすくなる

DXを進めておくことは、データなどの管理が進みいつでも必要データの分析などができるようになり、中長期的に新規ビジネスを創出しやすい体制に近づきます。

 

昨今、新しい IT が続々と登場しており、消費者のニーズは高度化かつ多様化しています。従来のような「同一商品の大量生産、大量消費」ではなく、個人ごとの趣味嗜好に対応するには、紙の管理では在庫管理や需要予測が困難となります。

 

売上げが厳しい中小企業こそ、このような細やかな個人ニーズの変化に対応し、新しいビジネスの種を見つけることが重要となります。

単にデータ管理をするだけでなく、ペーパーレスで生まれた余力を将来予測に充てられるかどうかが新規ビジネス創出のポイントとなります。データ分析を通じて消費行動の変化を察知し、新たなビジネスニーズを見出す動きにシフトした企業も一定数存在します。

 

DXを進めたことで、単なる無駄の削減のみならず、新しい売上げを創出できるメリットもあるのです。

 

DX推進による新規事業・イノベーション事例について知りたい方は、以下の記事もご一読ください。

➤➤DXとデジタルイノベーションの違い|それぞれの事例とDXを推進する方法

 

4.DXの課題を乗り越える3つのポイント

ペンで書くチェックリスト

中小企業がDXの課題を乗り越えるためには、大きく3つの押さえるべきポイントがあります。

  • DXで目指す姿を経営レベルで共有する
  • 社内の風土改革を試みる
  • リソースを確保する

具体的に一つひとつを解説していきます。

 

4-1.DXで目指す姿を経営レベルで共有する

DXを進めた先、どのような姿をどのようなレベルで目指すのかという具体イメージを経営レベルで共有することが重要となります。

DXは新しいビジネスモデルへの転換となるため、中小企業では部門レベルの推進ではなく、まずは経営陣を取り込まなくてはなりません。

 

極端な話、経営陣自身に「DXを進めて自社をこうしたい」というビジョンがなければ、たとえ予算があってもDXの推進は危うくなります。

 

DX推進の判断材料となる資料はIT部門や総務などのバックヤード部門から提出しても良いですが、最後は必ず経営陣自らの言葉でDXビジョンを語らせる状態を目指してください。

 

4-2.社内の風土改革を試みる

DXを具体的な業務に取り込む前に、古いビジネス慣習を見直す風土形成を行うことをおすすめします。

「従来型のやり方を踏襲する」風土のままで、業務プロセスだけ変更してしまうと、現場は大混乱に陥ることも予想されます。

 

風土形成は地道な取り組みになりますが、まずは出来る範囲かつ社員に抵抗感がない方法で以下のような取り組みをします。

 

【風土形成の取り組み例】

  • 「ミス撲滅運動(ミス撲滅月間)」などを実施する
  • 社員アンケートで「今のプロセスの改善点」などを広く洗い出す
  • シュレッダーの機材に「ペーパーレス化推奨!」などの張り紙をする

 

これらの取り組みは企業風土や業態によって相性はさまざまです。まずは「自社はどんな取り組みなら受入れられやすいか」を考えてみてください。

 

4-3. リソースを確保する

DX推進にはIT技術に関する人材の確保が必須となります。ただし前述したように外部からの新規採用が難しい中小企業では、既存のIT部門の人材の手を借りることが現実的になります。

 

既存のIT社員をDX専任に出来ればよいのですが、難しい場合はサポート体制だけでも整えるようにしましょう。具体的には以下のような工夫が考えられます。

 

【リソース確保をしやすくなる工夫例】

  • 各部署の横断プロジェクトにし、IT部門の社員にかかる負荷を軽減する
  • 総務や人事部門がDXの推進主体部署になり、IT部門の社員には部分的にアドバイザー的に関わってもらう(例「デジタルツールの価格相談にだけ乗ってもらう」など)

 

DXと聞くと最先端のデジタル知識が必要な印象があるかと思いますが、自社が取り組む範囲によってはそれほどITの知識は必要がないケースもあります。例えばオンライン会議システムなどある程度メジャーなツールは、IT素人でも直感的に操作できるUI設計となっています。

見方を変えると、中小企業はIT人材にこだわらず、「DXを強力に推進してくれるメンバー」探しが先決かもしれません。

 

5.DXを進める最初の一歩

最後に、前章「課題を乗り越える3つのポイント」を具体的に進めるための、最初の一歩を紹介します。

  • IT人材・予算獲得の準備をする
  • デジタルを業務に取り込み始める
  • 社内プロセスを変化させる
  • DXの助成金を調べる

具体的に一つひとつを解説していきます。

 

5-1.IT人材・予算獲得の準備をする

多くの企業は、会計年度の中で人材や予算獲得の時期が決まっているはずです。

期中に決まった人員・予算計画をDX推進のために覆すのは難しいかと思うので、きちんと時期を見極めて動くようにしましょう。

 

獲得のためのプロセスは各社で異なりますが、必要に応じて「他部署と予算調整を行っておく」「異動希望を出してくれそうな人材に根回しを行う」など準備を行って、会社としての正式決定にDXが乗るように準備を進めてください。

 

5-2.デジタルを業務に取り入れる

社内でDXを推進するには、まずは業務をアナログからデジタルに変更する準備を進めましょう。

いきなり新たなITツールを導入すると現場が混乱してしまうため、紙→デジタルへの変換程度のスモールスタートをするのが望ましいでしょう。

 

【デジタルを業務に取り入れる一例】

  • 紙での履歴管理をExcelに切り替える
  • 押印の代わりになるクラウドの電子契約を特定部署で取り入れる
  • FAXの代わりにインターネットFAXを導入する

 

少なくとも紙からデータの管理に切り替えるだけで、保管場所も不要になる上に社内の意識管理の一助にもなります。また外部のクラウドサービスやソフトウェアを使う場合は、トライアルで数日間無料のものもあるため手が出しやすいでしょう。

 

小さく始めることで、社内の抵抗勢力などを見極めながら、自社に馴染みやすいデジタルの流れが見つかるはずです。

 

5-3.社内のプロセスを変える

前述のデジタルの業務の取入れと似ていますが、よりDXへの意識を高めるには内輪のビジネスプロセスに手を打つことがおすすめです。社内会議などであれば、比較的ライトに社員を巻き込むことができるからです。

 

いきなりリモートワークの導入などを試みると、人事制度も含めて大掛かりな取り組みとなってしまいます。したがって、まずはカジュアルに試しやすい場面からプロセス変革をするのがおすすめです。

 

【社内プロセス改変の例】

  • 対面で行っていた社内会議の一部に、オンラインで参加する社員を増やす
  • 社内のプロジェクト管理に便利な進行管理ツールを使う

 

社内だけの取り組みにDXを取り入れることは、ITに苦手意識が高い社員も比較的受入れがしやすくなります。ベテラン社員がツールの使い方を若手社員に質問するなど、思いがけないコミュニケーションの活性化も期待できるでしょう。

 

5-4.助成金を調べる 

社内にデジタルを馴染ませる仕掛けを行いながらも、どこかで抜本的にDXを推進したい場合はあらかじめ助成金について調べておくことも推奨します。

たとえば、企業がITに関するツールを導入できる「IT導入補助金」や、ITに関する専門家の紹介とデジタル化の支援が受けられる「中小企業デジタル化応援隊事業」などが代表的な助成金です。

 

DXに関する助成金には、以下のようなものがあります。

 

名称

内容

詳細を知りたい場合

IT導入補助金

ITツールの導入に利用できる補助金で、導入経費の一部が支給されます。

業務の効率化や売上向上を目的としており、中小企業や小規模事業者を対象としています。

IT補助金2022【一般社団法人 サービスデザイン推進協議会】

事業再構築補助金

事業再構築補助金は、新型コロナウイルス感染症の流行による社会変化に対応するために設定された補助金です。

新型コロナウイルス感染症などの影響によって、売上が減少している中小・中堅企業のうち、「思い切った事業再構築に意欲を有する企業」が補助金の対象となります。

事業再構築補助金【中小企業庁】

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金

中小企業や小規模事業者の生産性向上を目的とした補助金です。

業種ごとに資本金や従業員の条件が設定されており、成長や収益の伸びが期待できる事業者が対象になります。

財務基盤が健全で、企業規模が小さい場合は審査が通りやすい特徴があります。

ものづくり補助金総合サイト【全国中小企業団体中央会】

成長型中小企業等研究開発支援事業

補助金の中でも少し特殊で、企業単独では申請ができず、中小企業を中心とした共同体を作って申請を行う必要がある補助金です。

ものづくりの技術基盤を高めることを目的とした支援事業で、研究開発や販路開拓に関する支援を行います。

成長型中小企業等研究開発支援事業【全国中小企業団体中央会】

中小企業デジタル化応援隊事業

他の補助金とは異なり、補助金の交付が行われるのではなく、企業がIT専門家(個人・法人問わず)に相談を行った際の費用を事務局が一部負担するという支援事業です。

対象となる事業は、中小企業などがデジタル化を推進する際にかかるものです。具体例としては、テレワーク、Web会議、クラウドファンディング、オンラインイベント、RPAなどの導入が該当します。

第二期中小企業デジタル化応援隊事業【中小企業庁】

小規模事業者持続化補助金

小規模事業者等の販路開拓と、それに伴う業務効率化の取り組みにかかる経費の一部を補助する制度です。

「一般型」と「低感染リスク型ビジネス枠」があり、後者は対人接触機会の減少や事業継続を両立させるための新たなビジネス・サービスを補助する支援です。

小規模事業者持続化補助金【全国商工会連合会】

 

DXは国をあげて推進を後押しする潮流があります。資金余力がない中小企業にとっては、条件や時期に合わせてさまざまな助成金が活用できるのは心強い存在となります。

会社全体でDXを推進するためには、このような助成金もセットで取り組みの審議をすると、経営陣を説得しやすくなるでしょう。

 

6.まとめ

今回の記事では、中小企業が陥りがちな課題と、その乗り越え方についてお伝えしました。

あらためてこの記事のポイントをまとめます。

 

◎中小企業のDX推進の課題は以下の4つです

DXを進める上での4つの課題

  • 経営陣のDXへの理解不足
  • 従来型のビジネス慣習への依存
  • IT人材・IT予算確保の難しさ
  • ペーパーレス化が進んでいない

 

◎世の中の中小企業のDX推進状況は以下の通りです

  • DXの理解度は3割程度で、実際に取り組んでいるのは1割以下の企業
  • 取り組み内容は「ホームページ作成」や「業務のオンライン化」
  • 「当面進まない」という後ろ向きな回答が多い

 

◎DXに取り組むことで得られるメリットは以下の通りです

  • 生産性が向上する
  • コストカットができる
  • 人材獲得力が向上する
  • ビジネストラブルを回避できる
  • 新規ビジネスが創出できる

 

◎DXの課題を乗り越えるポイントは以下の通りです

  • DXで目指す姿を経営レベルで共有する
  • 社内の風土改革を試みる
  • リソースを確保する

 

◎DXを進める最初の一歩は以下の5つです

  • IT人材・予算獲得の準備をする
  • デジタルを業務に取り込み始める
  • 社内プロセスを変化させる
  • DXの助成金を調べる

 

中小企業においては予算や経営陣の理解などの課題が多いDXですが、現状でもそれほど推進が進んでないことがうかがえました。

しかし中小企業にもいずれDXは逃れられない課題になることは間違いないでしょう。むしろ、3年後には取り組みの有無で競争力に大きく差がつく状況もうかがえました。

 

現実的に取り組めることに限りはあるかと思いますが、当記事でDXの課題を知った上で「自社ならどこからならDX化できるか」を考えていただき、できる部分から着手を検討いただければ幸いです。

 

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